第二章
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その彼を小柄な四角い身体で見上げつつだ、警部は話した。
「ドラキュラ伯爵みたいだってな」
「まさかと思いますが」
「犯行時間は夜らしい」
「本当にドラキュラ伯爵が」
「しかしここはベトナムだ」
警部はチンにこのことを言った。
「わかるな」
「はい、ルーマニアじゃないですから」
「そんなことがある筈がない」
ドラキュラ伯爵の仕業とは、というのだ。
「絶対にな」
「我が国も観光客が多いですが」
「多くなった」
そうなったとだ、警部は彼の若い頃のことから話した。
「そうなったがな」
「しかしですね」
「ルーマニアからの観光客がいてもな」
「そんな話はないですね」
「全くだ」
「おかしな話です、いや」
ここでだ、ふとだった。
チンは幼い時に曽祖父のザップに言われたことを思い出した、そのうえで警部に言った。
「ひょっとしてですが」
「ひょっとして?」
「これは吸血鬼は吸血鬼でも」
この範疇にある敵でもというのだ。
「ルーマニアの吸血鬼じゃないかも知れないです」
「ドラキュラ伯爵じゃない」
「はい、元々その可能性はないですが」
「まあ流石にな」
警部は自分が言ったことなのでこう述べた。
「夜とはいってもな」
「はい、流石に」
「ベトナムの日差しは強いしな」
ドラキュラ伯爵は日光に弱いことをだ、警部は言った。
「小説の方じゃ日差しの下にもいたが」
「読まれてますか」
「これでもな、まあ吸血鬼は日差しには弱いのは事実だな」
「多くの吸血鬼は」
「東欧の吸血鬼は多いな」
そうした日差しに弱いものがだ。
「実際に」
「そうですね、吸血鬼はあっちに多いですが」
「お国柄か?東欧の」
「土葬と正教の考えとかで」
「他にも色々あるみたいだがな」
「まあ吸血鬼の話は世界中にあります」
確かに東欧にかなり多いがだ。
「我が国にも」
「ベトナムにもか」
「今回の事件もそうじゃないですか?」
真剣な顔でだ、チンは警部にここで言った。
「ひょっとして」
「おい、まさか」
「こうした怪奇事件は」
「噂には聞いてたさ」
警部は懐疑的な顔でチンに返した。
「我が国は共産主義だがな」
「それでもですね」
「そもそも方便だ」
共産主義自体がというのだ、宗教の類を一切信じていないという。
「はっきり言ってな」
「それを言い切る国ですしね」
「ああ、共産主義といってもな」
「市場経済ですし」
所謂ドイモイ政策だ、この国は共産主義体制自体が崩壊したと見ると素早くこの政策を開始したのである。
「宗教についても」
「変なのでないとな」
「いいですしね」
「共産主義でも飯が食えないと意味がない」
これがベトナムの考えだ。
「だからだ」
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