人面犬
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―――今くらいの季節を晩冬などというようだ。
いつかこの街を覆い尽した猛吹雪など跡形もなくなる程、暖かい日が続いている。庭の片隅に佇む紅梅が、ぽつぽつと花をつけ始めている。例年より早い。このまま春になりそうだな、と考えながら、窓の外を眺めて珈琲を啜る。
斜め向かいのソファーには、灰色のハーフパンツに芥子色のパーカーを羽織った縁ちゃんが座って、同じく珈琲を呑んでいた。縁ちゃんが俺の家に来るのは久しぶりだ。…静流には悪いが、やはり、少しときめく。
「…私、こんな用事に駆り出されるの、河童騒動以来なんだけど」
「―――河童騒動か」
ずっと昔、俺達が巻き込まれた妖怪騒動があった。
小学生くらいの頃だったろうか。クラスの友人の何人かが、近所の用水路で河童を見たと騒いだことがあった。普段から嘘を云う奴らではなかったし、不思議な信ぴょう性があったので、うちの学区の男子は皆、河童狩りに夢中になったものだ。俺と鴫崎と、嫌々ながらの奉、そして妹の縁ちゃんが、俺の河童捜索チームのメンバーだった。随分年下の縁ちゃんを選抜メンバーに加えた理由が『泳ぎがうまいから』。河童相手に何させる気だったのやら。
「まぁそう云うな。こればかりは、きじとらに手伝わせるわけにはいかないからねぇ」
陰鬱な表情も露わに、奉がソファーにもたれかかった。
「んん、じつはうちの高校でも、噂は流れてんだよねぇ。探してる男子もいるみたいだけど」
男子、子供だよねぇ。と、くすくす笑いながら云う。…その子供のような行為を俺たちもたった今、強いられているんだが。
「……あぁ、もう動きたくない……」
「何て言い草だ。言い出しっぺの分際で」
事の発端は、いつも通り、またしても…小梅の一言だった。
「ひろむがね、じんめんけんなんて、いないっていうんだよ!!」
姉貴が来襲し、実家に娘を置いて友達と遊びに出てしまった日曜日の昼下がり。いつも通り、何処からともなく小梅の気配を嗅ぎつけて現れた奉の膝にちょこんと座ってジャイアントカプリコを齧りながら、小梅が云った。
「―――じんめんけん」
あぁ、人面犬か。思い出すのに時間が掛かってしまった。俺達が子供の頃に少しだけ流行ったが、人面犬のブームは近年2回目で、どちらかというと『懐かしの人面犬は今!』みたいな流行り方をして、一瞬で消えていった。
「んとね、えりりんがぁ、じんめんけんみたの。スーパーで」
「スーパーで!?」
俺と奉、どちらともなく裏返った声を出した。
「おいおい、ちょっと信ぴょう性が疑わしいロケーションだぞ」
こっそり奉に耳打ちする。奉はまったく反応せず、ただ小梅の話に静かに耳を傾けるのみだ。
「でもね、ひろむがね、じんめんけんなんていないっていうの。だってだれも
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