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霊群の杜
人面犬
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だよ。…だから、子供の間で流行っている都市伝説ってのは一番、質が悪いんだよねぇ」
それは…人面犬の出生が本当に子供達の噂であれば、そして肉付けをするのが子供達であるのなら、確かに人面犬の存在は好ましくない。子供の思い込みは移ろいやすいからだ。
「もし子供の一人が勝手に『人面犬は人肉を喰らう』という情報を付加するようなことがあったら…!!」
云いながら、この季節に相応しくないような大量の冷や汗が背中や脇を伝った。…形を成す時に出会ったのが小梅だったら…!
小梅は人面犬を酷く警戒していた。悪い奴なのです、と断言していた。小梅の中で渦巻く思い込みがそのまま具現してしまったら…そしてその化け物に、小梅の捜索隊が出会ってしまったら…!!


「そう。だから結貴と、縁が必要だったんだよねぇ」


くっくっく…と籠った笑い声をあげて、奉が俺達を流し見た。
「わたしが?なんで?」
大きな目を瞬かせて、縁ちゃんが俺たちの方に向き直った。…何故だろう、ただきょとんとしている縁ちゃんがそこに居るだけで、俺はひどくホッとしていた。
「まず結貴。お前は完璧に荒事要員だ。爛れた大学生活で膿み濁ったお前の穢れ多き感性では、人面犬の糧にはならん」
「すげぇ畳みかけるな。俺お前に何かしたか」
「そして縁。お前は人面犬探しを楽しんでいただろう?」
「…そりゃ、ちょっとは」
少し照れてもじもじしながら、縁ちゃんが上目使いで俺達を見る。…可愛い。動画に撮りたい。
「お前の頭の中ではさぞかし間抜けな感じの人面犬を思い描かれていたのだろうねぇ…きじとらは犬が大嫌いだから、こうはいかないだろ」
「なにこの兄貴むかつく」
「二人がかりでボコろうか」
「下手に畏れを持った奴に探させれば、その畏れが色濃く反映されて狂暴性の強い人面犬になっただろうねぇ。だが縁が生んだ人面犬は何処か滑稽で、臆病な足の速い犬だった。だから誰も怪我をすることなく、散らすことが出来た」
それだけ一気に云い終えて、奉は既に関心を無くしたように路地の袋小路に背を向けた。
「―――これで当分は大丈夫だ。小梅もそのうち飽きるだろ」
黒い羽織を翻して、奉は薄闇に溶けるように去って行った。…おいお前、妹を送らないのかよ、と云いかけたがそもそもあいつは自宅に帰らないのだった。
「―――送るよ」
「んん…つまんないの!まだ夜になってないのに」
奉なんかの兄妹に生まれついたせいで、面白さの基準がどこかおかしいのだろう。でももう暗いから、と縁ちゃんを軽く説得して、俺は縁ちゃんの歩調で歩き始めた。…縁ちゃんは、小学校の頃のように俺の袖を軽く掴んでついてきた。ひどく、久しぶりな気がして俺はつい、縁ちゃんを凝視してしまった。
「……私って、間抜けな感じなのかな」
「しっかり者だよ、縁ちゃんは」
「ん、
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