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霊群の杜
人面犬
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面犬になる、とか」
「噛まれただけで体の構造までいじられるとかねぇ…都市伝説ならではの横紙破りで普通に笑っちまう話なんだが」
奴らは『キメラ』だからねぇ…と、奉が呟いた。
「…本当に、噛まれたら人面犬になるのか…?」
「さあね。分からん。何しろ人の思い込みや好奇心をめくらめっぽうに放り込んだ闇鍋みたいなもんだ。どんな要素を持って生まれるか、全くの未知数さね。ただ…」
奉の目が、きゅっと細くなった。
「小さな子供の目に晒すには、好ましくないねぇ」
そう呟いた奉の視線を追う。
それは、俺には分からない程度のうねりだった。…というか、実際分からなかった。縁ちゃんが『あれ、この辺、なんか変』と云いだすまで、俺には知覚すらできなかったのだ。
正直、衝撃だった。
俺は自分の『過敏さ』には少し自信があった。この傲岸不遜な祟り神すら、それだけは認めている位に。…そうこう考えているうちに、暗がりの中心に澱のようなものがじわりじわりと溜まり始めた。同時に押し寄せる獣の気配。…こんな気配がどこに隠れていたのか、と不思議に思うほど、それは濃厚、かつ醜悪な匂いがした。
「うわぁ…」
縁ちゃんが、その澱の塊に吸い寄せられるようにふらふらと歩み寄る。俺はその腕を取って止めた。何故だろう、とてつもなく厭な感じがするのだ。…少なくとも、初心な女の子を近寄らせてはならない、そんな気がする。
「人面犬、てな案外に古い妖でねぇ。…文化7年に遡るのか。そうか、もうそんなになるのか…」
「いつから居るんだよ、お前が」
「人のように鼻の長い犬が発見され、見世物にされたんだよねぇ」
「……」
「―――ときに梅毒って知ってるか」
「知ってるかと云われれば知ってはいるが…」
「性病だな、お前には縁のない」
「うるせぇよ」
「当時な、雌犬を犯すと梅毒が治癒すると信じられていたんだよ」
うえぇ…何故今そんな厭な話をするのだ。
「で、鼻の長い犬は、そうして産まれた犬と人の落とし子と思われた」
「そんな…」
馬鹿な。そういう嗜好の持ち主は今もいるが、染色体の数が違う生き物同士が交尾をしても子は出来ない。今なら誰でも知っている事だ。だから……。
「そりゃ勘違いだ。そうだろ?」
奉が口の端を吊り上げて笑っているような形を作った。
「だが『鼻の長い犬』は居た。その正体は…まぁ、恐らく外国の犬だねぇ」
「外国の?」
「当時から狩猟犬は飼われていたろう?それが船にでも乗って日本に辿り着き、飼い主の外国人とはぐれたか、それとも死に別れたか…そこはまぁどうでもいいんだが、何らかの事情で野良犬となった」
そういや、なんとかハウンドとかいう海外の狩猟犬は大抵、妙に鼻が長い。
「日本犬と比べると面立ちは相当違うが、犬は犬なんだがねぇ…外国の犬を見慣れない当時の日本人から見た
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