人面犬
[3/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
した脚線を覆うニーソックスが、去年に比べると少しふっくらして見える。…いや、太くなったというわけではない。寧ろ丁度いい、いやもう少し太い方が俺的には
「誰が妹の脚を凝視しろと云った」
「うっわ」
いつの間にか俺の後ろに回り込んでいた奉が、耳元で呟いた。
「くっくっく…浮気者め」
「う、うるさいな!そりゃ見るだろ!?」
真っ先に俺の目線に気が付いた癖に何云ってやがるんだ。
「……いいか、この件で必要なのは『手っ取り早く済ます』この一言に尽きる」
「そういうのを無茶振りというんだよ。人面犬がそこら辺を簡単にうろついているものか」
奉が何かを考えるように、少し黙り込んだ。そしてふと顔を上げ、縁にも聞こえる程度に声を張った。
「野良犬でも、それっぽいものでもいい。この暗がりで『それっぽく見える何か』を探せ」
人も通らない薄暗がりの路地を、俺たちは歩いていた。街灯の灯りがギリギリ届く暗がりに、時折動くものがある。それらは駆け寄ると逃げてしまう。
「…なんかさ、こういうの…なんだろ、あの暗い所に何が居るの?」
「……そうだな」
―――気が付かなかった。
普段から通るこんな街中の路地の、あちこちに見え隠れする、蠢く何か。それは近寄ろうとすると逃げ水のように逃げていく。俺たちが当たり前のように歩き回っている近所の路地が、夜が更けるとこうも妖しく変貌するとは。
「随分、沸いてるねぇ…想定以上だ」
こんな暗がりにあっても、奉の薄笑いが見えるようだ。
「結貴よ」
「何だよ」
寒い。キリがない。もう帰りたい。そんな思いが俺の口調を荒くした。
「さっきの問い、お前ならどう答える」
「問い?」
「縁への、問いだ」
「……人面犬の目撃例の話か?そりゃ…見る人が見れば、そこらへんの雑種でも」
……そうか。奉が云いたいのは。
「思い込みと気のせいの積み重ね、なんだな?」
「―――悪くはないねぇ」
奉が暗がりで笑ったような気がした。その表情すら薄闇は朧げに遮ってしまう。
「もう一息」
「まじか。面倒くさいな。もう考えたくないんだよこっちは。察しろよ」
仕方ないねぇ…と、実につまらなそうにため息をつくと、奉が訥々と語り始めた。
「―――奴らは所謂『キメラ』なんだよ。思い込みと気のせいと見間違いと好奇心の」
「…キメラ?」
「まず『噂』という『胚』が形成される。それは思い込みや見間違いなどの要素を『受精』し、暗がりという『腹』の中で『噂』を糧に肥え太り育つ。それが臨界に達した時、その姿を現す」
「…姿を現す?それじゃまるで」
「最悪の場合、実態を持つ。…巷に云われる人面犬の性質ってのはどんな感じだ?」
「ん?…そうだな、俺の知ってる限りだと…『ほっといてくれ』と呟いて逃げる…とか、噛みつかれると人
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ