暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
人面犬
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
、つかまえたことないじゃん、て」
「ふぅん。小梅はいると思うのかな」
「いるよ、ぜったいいる!!」
「そうか。…どうして、いると思うのかな」
そう呟く奉の表情は、珍しく険しかった。小梅が膝に乗っているというのに。
「よくぞきいた、まつるくん。…んとね、さいきん、ちょっとへんなの」
「……変」
カプリコを齧るのを少し休んで、小梅は顔を上げた。


―――でてきちゃいけないものが、でてきているんだよ。


そう云い切る小梅の顔立ちは何故か、妙に大人びていた。
「いやな、きもちになるの。とてもいやなかんじ」
「そうか…小梅ちゃんには、分かるのか」
そう呟いて奉は、膝の上の小梅を見つめていた。小梅は軽く座り直すと、再びカプリコを齧りながら叫んだ。
「たぶん、わるいやつなの!だからね、みんなで、じんめんけん、つかまえるの!!」



「―――正直、今回のは気が向かないんだよねぇ」
奉はコーヒーカップをソーサーに戻した。
「だったら何で安請け合いしたんだ」
「せざるを得なかったんだよ」
声に苛立ちが混じっている。…どうしたのだ奉、小梅絡みのオファーに関しては途方もない忍耐力と集中力を見せるお前が。
「既に小梅は人面犬の捜索隊を組織してその正体に迫ろうとしている」
「お友達いっぱい誘って、人面犬さがし遊びしてるってことでしょ。大袈裟なんだよお兄ちゃんは」
「……なぁ、縁。お前も話くらいは聞いた事あるよな」
30年以上前の、人面犬ブームのことは。そう云って奉は縁ちゃんの目を覗き込んだ。…鋏を持っていない妹に対しては、奉はとても強気だ。
「むー…そういうのがあったってことくらいは知ってるけどぉ…」
「数多くの目撃証言が上がった。不自然な程にな」
「ふぅん…都市伝説あるあるだねぇ」
「何故か、分かるか?」
「へ?…んー、嘘ついて、人気者になりたいから?」
くっくっく…と忍び笑いを漏らしながらも、正解は云わない。底意地の悪い兄だ。奉はようやく重い腰を上げると、心底厭そうに伸びをした。
「おら、ちゃちゃっと終わらせるぞ」




家を出る頃には、既に陽が傾きかけていた。行き交う人々の顔が斜陽に翳る、所謂『逢魔が時』だ。まだ花も葉もない桜の大木が、その枝を薄気味悪く黄土色の空に差し伸べている。誰ともなく、肩を震わせて上着の前をかきあわせた。
「昼じゃ駄目なのかよ…」
悪態の一つも出ようというものだ。
「もうさ、こんな時間じゃ何見てもお化けに見えそうだよね」
縁ちゃんは少しワクワクしている。玉群の家は門限が厳しいのだ。
「ねぇねぇ、いつまで探すの?」
「…そんな遅くまでは連れ回せないよ。今日だって特別に許可もらったのに」
「……むぅ」
少しふくれてみせて、軽やかな足取りで歩き出す。すらりと
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ