巻ノ百五 祖父との別れその二
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「乗り越えてじゃ」
「そして進めますな」
「そうじゃ、山の中も猿以上に進められるならば」
「それならですな」
「城もじゃ」
そこの堀や壁といったものもというのだ。
「何でもないわ」
「ですな、では」
「このまま修行を積むのじゃ」
「そのうえで猿を超える」
「そうなるのじゃ、ただくれぐれも言うが」
幸村もこのことを言うが大介のそれとは違い穏やかな口調で言うだった。この辺りは幸村の気質のせいか。
「お主の悪いところはな」
「調子に乗りやすいことはですな」
「注意するのじゃ」
そこはというのだ。
「そうすればよい」
「では」
「拙者も気付けば言う」
注意するというのだ。
「だからな」
「拙者自身もですな」
「注意するのじゃ、自分で気付くのが第一じゃ」
「ですな、では」
「よいな」
「はい、そこは気をつけます」
「そうせよ」
こうした話をしつつだ、猿飛は大介そして猿達と共に縦横に動いていった。それはその動きごとに猿を超えていっていた。
その中でだ、大介は山の中で穴を掘りそこに先の飯の時に焼いた石を入れて湯にしたところに三人で入りつつ猿飛に言った。
「この風呂は知っておろう」
「うむ、真田家でもよく入る」
猿飛は大介に答えた。
「そもそも祖父殿が子供の頃よくわしと一緒に入った風呂ではないか」
「そうじゃ、しかし真田家でも入るとは」
「当家は山の中の家、忍として山の民とも付き合いがあり」
二人と共に入っている幸村の言葉だ、実にいい湯であり三人共修行の疲れをその湯で取っている。
「こうした湯も知っておる」
「左様ですか」
「左様、しかしこの風呂が佐助も知っておることに最初はこれはと思ったでござる」
「ははは、我等は山の民とも親しいので」
猿飛が笑って応えた。
「それで、です」
「この風呂もか」
「入っておりました」
「左様か」
「はい、むしろ真田家がかなり山の民のことを知っておったのが」
「むしろか」
「最初驚きました」
そうだったというのだ。
「真田家は只の忍の者ではないと」
「そうでなければ天下に忍道をもうけられぬ」
「それもそうですな」
「我等も昔から山の民達と付き合いがある」
「そうした忍ですな」
「そう考えるとお主達と近いな」
「ですな、我等はです」
猿飛は己の身の上の話もした。
「祖父一人孫一人で」
「伊賀や甲賀、風魔とはそこが違うな」
「はい、ああした大所帯ではなく」
「家族でやってきたか」
「そうでした、山では修行ばかりで」
「山の民や猿達とじゃな」
「共におりました」
そうして修行をして暮らしていたというのだ。
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