巻ノ百四 伊予へその十三
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「何かあった時はお呼びするか、しかし」
「あの方を呼ばれれば」
「その時はですな」
「戦ですな」
「その時ですな」
「まさにな」
何処との戦かは言うまでもなかった。
「その時になる」
「だからあの方はお呼び出来ませぬな」
「ずっと九度山に流罪とされていますし」
「だからですな」
「余計にですな」
「それは出来ぬ」
昌幸を呼ぶことはというのだ。
「残念じゃがな」
「そういうことですな」
「ですから我等だけでするしかありませぬな」
「茶々様、そして女御衆の方々をどうするか」
「そのことについては」
「それしかないが」
片桐の顔は難しいままだった。
「あの方を抑えるなぞ滅多にな」
「出来るものではない」
「どうしてもですな」
「ですからどうにもならぬ」
「このままでは」
「大坂はどうなるであろうな」
片桐は苦い顔で言うだけだった、彼と周りの者達が出来ることは内の政位であった。それ以外は出来なくなっていた。
大野もだ、弟達にその大柄な身体で言っていた。その彼が言うことはというと。
「わしは二心はない」
「はい、兄上はです」
「そうした方ではりませぬ」
大野の弟である大野治房と治胤が応えた。
「そのこと我等がよく知っております」
「豊臣家に対して絶対のお心があります」
「他のことはともかくこのことは自負しておる」
彼自身こう言う。
「だからな」
「はい、決してですな」
「怪しきことはされませぬな」
「豊臣家に対して二心なき」
「それを守っておられますな」
「他家に通じることも茶々様やお拾様に何かすることもじゃ」
そうしたこともというのだ。
「一切ない、ただ私を捨ててお仕えするだけ」
「そうですな、それでなのですが」
ここでだ、治房はあえて兄にこのことを話した。見れば彼も治胤も長兄程大きくはない。程々の大きさだ。
「兄上、若しくは石田殿が」
「あの話は」
「巷には下種な者がおります」
「だからじゃな」
「そうした話をしています」
「気にすることはない」
大野はあっさりとだ、その話を構わぬとした。
「一切な」
「兄上のことですが」
「わしがその様なことをすると思うか」
表情を一切変えずだ、大野は治房に問うた。
「そして治部殿が」
「いえ」
治房も一言で答える。
「天地がひっくり返っても」
「そうじゃな」
「兄上はそうした方ではありませぬ」
「治部殿にしましても」
治胤も言う。
「そうした方ではありませぬ」
「無論茶々様もじゃ」
彼女にしてもというのだ。
「そうした方ではないわ」
「そうした下種な話はですな」
「只の噂話ということですな」
「また言うがそうした話は言わせておけ」
大野は一切構わぬとだ、
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