第一章 天下統一編
第二十五話 牛鍋
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いただきました。今日は楽しみにしています」
「そう言ってくださるともてなしがいがございます」
高山右近は俺が俗物な口ぶりをすると機嫌良さそうに笑った。横目で細川忠興に視線を向けると彼は居心地悪そうに視線を動かしていた。
「細川殿、今日も楽しんで行ってください」
「楽しませていただきます。あれを食べるのが楽しみで足繁く通わせていただいています」
細川忠興は急に饒舌に語りだした。料理は期待していいようだ。不味い料理なら細川忠興はこんな世辞は言わないと思う。
「直ぐに用意させます」
高山右近は蒲生氏郷の横に腰をかけ小姓に指示を出し、囲炉裏に底が平たい鉄鍋を配置させた。囲炉裏には薪がくべられ鉄鍋が熱せられる。
その間に鍋に入れる具材が運び込まれた。その具材に目を疑うものがあった。
「豊臣侍従様、気になられますか?」
「それは牛の肉ですよね?」
高山右近は俺の指摘に驚いている様子だった。
「牛の肉とよく分かりましたね」
高山右近は好奇心に満ちた目で俺を見ていた。口を滑らしてしまったか。この時代、牛の肉を食う文化は日本にない。西洋人と関わりを持つ高山右近のことだ。西洋人から情報を得たのだろう。
牛肉を見ると霜降りでなく赤みだ。老齢の牛を絞めた肉だと硬そうだ。
「この肉は若い牛を絞めたものですから気に入ると思います」
高山右近に俺の腹の中を読まれたようだ。
「そうですか。楽しみにします。牛の肉を以前見たことがあったので気づきました」
「それはどちらででしょうか?」
高山右近は俺を追求してくる。
「堺です。私は天王寺屋と懇意にしています」
「天王寺屋ですか」
高山右近は納得したように頷いていた。
「話が長くなりましたね。早く準備をしましょう。豊臣侍従様、今日の料理は牛鍋です」
高山右近は話を切ると、熱した鉄鍋に牛の脂身を入れ油を張り肉を焼く。肉の上に砂糖を載せ、肉が焼ける頃合いを見て醤油をかけ肉を浸した。食欲を刺激する美味そうな臭いが鼻腔を刺激する。
「豊臣侍従様、お召し上がりください」
高山右近は甘辛い汁が染みた肉を木製の椀につぐと俺に手渡した。
「かたじけない。先にいただかせていただきます」
俺は蒲生氏郷と細川忠興に目礼をすると肉を口にした。久方振りの過去の記憶に残る味だ。
「美味い」
俺は感嘆し、思わず言葉が口から漏れた。
「それは良かったです。肉は沢山あります。存分にお召し上がりください」
高山右近は笑顔で俺に言った。この時代に砂糖は簡単に手に入らない。これだけふんだんに砂糖を使うとは金と太い人脈があるということだ。前田利家が手放さないわけだ。
「鶏の卵が欲しいですね」
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