ターン79 鉄砲水と表裏の皇帝
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トイックで。それこそが皇帝の皇帝たる証、自分の身体よりもその精神に重きを置く、誇り高く生真面目な彼の生き様。
「約束」
そう呟くと、カイザーの表情にかすかな変化があった。やっぱり、思った通りだ。
「約束……守りに来てくれたんだ」
「当たり前だ。それに、仮に俺にその気がなかったとしても、このデッキがそんなことは許さないだろう。俺にもっと戦えと、もっと戦わせろと、そう囁いてくるこのカードがな」
そう言って、こんな時でも腕に付けているデュエルディスクに視線を落とすカイザー。カードが囁く、ねえ。正直なところカイザーのデッキから精霊の気配は感じられない、けど……サイバー・ダークはなにせあのヘルカイザーとこれまでを戦い抜いてきた曰くつきのカードだ、精霊とは別に何かの力が宿っていてもおかしくはない。それがロクなものかどうかはともかくとして。
「約束?お兄さん、何の話?」
完全に置いてけぼりになっていた翔が、そこで口を挟む。あの時翔はいなかったから、この話を知らなくても仕方がないだろう。聞かないでいてくれるとこちらとしても何かと楽だったが、そういう訳にもいくまい。
「あの覇王の異世界で、約束したんだ。またいつか、サイバー・ダークと手合せ願いたいって」
「そんな……!無茶だ、お兄さんはデュエルなんかできる体調じゃないのに!」
「まず、これだけ遅くなった非礼を詫びさせてもらおう。すまなかった」
翔のいたって当然の非難もどこ吹く風、平然としたまま軽く頭を下げるカイザー。一見健康体そのものに見える、だけどよく注意して見ればすぐわかる。本来彼の体は、今こうしてここに立っていられることさえ奇跡みたいなものだ。当人は精一杯隠そうとはしているが、いくらカイザーの精神力が並はずれていてもそのボロボロになった体は嘘をつけない。ちょっと小突いてしまえばすぐ倒れそうな危うさが、ギリギリのバランスで成り立っている。こんな状態でデュエルすれば、たとえダメージの実体化がない普通のデュエルであっても凄まじい負担がかかってしまうことは想像に難くない。
「お兄さん、もうやめよう!約束でもなんでも、今は駄目だよ!」
「心配性だな、翔。だが、このデュエルを退くつもりはない。約束はもちろんだが、俺にはこのデッキに借りがある。ならば……!」
口調こそ静かだが、その言葉には強い意志の力が隅々まで込められているのがわかる。普通に考えれば翔の言ってることの方が正しいんだろうけど……だけどなぜかはわからないが、目の前のカイザーはもうそんな次元を越えたところに居るような、そんな印象を受けた。もう肉体がどうこうといったくくりに捕らわれず、もっと高次の存在となっているような。だからこそこんな、自分の身体を顧みないような行動もできるのだろうか
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