ターン79 鉄砲水と表裏の皇帝
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「はー……葵ちゃーん」
「どうかしましたか、先輩?」
のどかな昼下がり、いつもの放課後。珍しく誰も来ない店の中で、退屈を持て余し隣の葵ちゃんに話しかける。
「いや、暇だねって話」
「……どうかしてたのは頭でしたか」
「あら辛辣。つれないねえ、コミュニケーションは大事だよ?」
「今度はパワハラですか。始末に負えませんね」
なんだかんだ言いつつ会話自体には付き合ってくれるあたり、葵ちゃんも暇してるのだろう。彼女の性格から考えて、本気で相手したくない時は返事すらしてこないはずだ。
とその時、廊下から何やら人の動く気配がした。葵ちゃんも同時に気づいたらしく、すぐに全身をシャキッとさせて1瞬で仕事モードに移行する。
「すいません、ちょっといいっスか?」
「あれ、翔?はいどうぞ、いらっしゃいませー」
ノックと共に聞きなれた声がして、すぐに扉が開く。そこにいた彼の……いや、彼らの様子を見て、なぜこんなに時間がかかったのかが理解できた。そこにいたのは、翔だけではなかった。彼の押す車椅子は空っぽで、その前には彼の兄にして漆黒のコートに身を包む僕らの大先輩。かつてカイザーの名で知られ今ではヘルカイザーの通り名を持つ男、丸藤亮が立っていた。
「カイザー……」
「おじゃましてすいません。でもどうしても兄さんが、清明君に会うって聞かなくて。リハビリもかねてってことで鮎川先生の許可も貰ったから、僕も付いてきたんだよ」
リハビリ、という言葉が重くのしかかる。覇王の異世界で僕と別れた後、彼はユベルと戦っていたのは僕も知っている。大激戦の末に力尽きたものの、十代がユベルと一体化したのちどうにか僕らと共に帰還した、とも聞いていた。ただこれまでの無茶なデュエルがたたり絶対安静の面会不可という話だったから、あの時に別れて以来僕らが顔を会わすのはこれが初となる。
久しぶりに見るカイザーは少々やつれてはいたが、体の状態と反比例するかの如くその目の狂気的ともいえるギラギラとした輝きは相変わらず、どころかあの時よりさらに深みが増しているようにも見えた。全てを射るようなその眼差しを真っ向から受けて立ちすくんでしまった僕に、落ち着いたいつもの口調で話しかけてきた。
「久しぶりだな、清明」
「ああうん、そっちこそ。元気?……っていうのもおかしいけど」
そんな間抜けな返事をしながら、頭の中では彼が体調を顧みずこんなところまでわざわざやって来たわけを考えていた。なんて、そんなもの思い当たる節は1つしかないのだが。
吹雪さんも以前チラリと似たようなことを言っていたが、それより付き合いがはるかに短い僕でもよくわかる。この男の本質はどれだけの時が経っても、僕が彼と初めて出会った3年前からまるで変わらない。目の前のことに真っ直ぐで、ス
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