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俺の四畳半が最近安らげない件
美髯公の呪い〜小さいおじさんシリーズ19〜
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ベランダに蝉の死骸が落ちている。


大木が多い俺の四畳半アパートでは、風物詩の如く、ベランダに蝉の死骸が落ちる。悪臭を漂わせるわけでもなく、ただ乾いていくそれらを、俺はいつも放置している。秋が深まる頃には何故か、死骸は消えているのだ。…鳥にでも食われているのだろうか。
「海老が食えるということは、蝉も食えるのではないか?」
俺の四畳半に時折姿を現す三人の小さいおじさんは、今日も涼しくなってきた夕闇のベランダで杯を傾ける。…お前ら、蝉の死骸がちょいちょい消えてんだぞ。カラスにでも襲われたらどうする気なんだよ。
「勝手に食え。俺の目の届かない所でな」
豪勢の無駄な好奇心に、端正が常識的な皮肉で切り返す。いつもの光景だ。白頭巾はただ黙って、琥珀色の液体を夕日に透かしている。馬鹿馬鹿しい議論は完全スルーの構えか。厭な奴め。
「よく乾いている奴は素揚げだな!塩を振れば、多分酒の進む味になるぞ」
「……蝉は、美女の生まれ変わりと云いますねぇ」
あ、何か喋った。厭なことを。
「えぇ…」
端正が心底厭そうにベランダでひしゃげた蝉の死骸を眺める。
「もう卿らと一緒にベランダで涼むのはやめだ。酒が不味くなる」
端正が窓のさんを跨いで部屋に戻る。他の二人も律儀に後を追う。…まぁ、賢明だ。この時間からは近所の藪から蚊がやってくる。彼らのサイズでは、蚊など吸血蝙蝠みたいなものだろう。
「今日はシメの菓子に、月餅をもらうか」
豪勢がほくほくしながら白い菓子箱に手をかける。
先週、仕事の関係で横浜に行く機会があり、ついでにおじさん達への手土産として、小月餅を買っておいたのだ。時代は2000年程度違えど、元々中国の人達なのだから味の好みはさほど大幅には変わらないだろう。
結果は豪勢の好みにどストライクだった。いつもなら誰か配下を呼びつけて三等分させるのに、月餅はは豪勢自ら短刀で切り分けて皿に分ける程だ。無論、自分の分は少し、いや大分多めにだ。
「多く食いたいのは構わんから、次からはもう少し綺麗に切れる部下を呼んでくれ」
ガタガタの切り口にイライラするのか、端正が懐から短刀を取り出して断面を削ぎ落し始めた。
「どうだこの上品な餡の甘さと仕込まれた干し果物の歯ごたえ!関帝廟の膝元の銘菓と思うと、尚更旨いのう」
大はしゃぎで月餅に食いつく豪勢の横で、端正は更に月餅を切り分けながら思案気に首を傾ける。
「…しかしこの国の民は、どうしてこうも中国が好きなのだろうな。巷に溢れる三国志のゲーム、コンビニのレジの真横で夏でも温まっている肉まん、行列の出来るラーメン店、中華街…国交がうまくいっているようではないのだが…」
「関帝廟とかもあちこちにありますねぇ。誰がどう信仰しているのやら」
白頭巾の口には余り合わないようで、短刀で几帳面に切り分けた月餅を一切
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