捌
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方ない。だって、どうしようもないのだ。それだけ大切で、名前を呼ぶと嬉しくなって、無言が苦しくなくて、その未来を祝福したい。
だって私は、私の願いは―――
=☆=
「マルガ、何、言って……」
言葉は、あまり形になってくれなかった。
だってそれは、その言葉は、あまりにも予想外だったから。ないはずのものだったから。
「へぇ、なるほどな。思ったより忠誠心のあるサーヴァントだった、ってわけだ」
しかし、そんな俺を気にする者がいるはずもなく。ランサーは槍を喉元につきつけたまま、マルガへ言葉を投げる。
「あら、そんなに以外かしら?」
「ああ、正直意外だね。アンタ、そんな人生送ってきたタマじゃねえだろ」
「まあ確かに、その通りね。でも、彼に対してはそれだけの信頼を感じているのよ」
「へぇ、この小僧が、ね……」
カラン、と。ナイフが手から滑り落ちる。ランサーはそんな俺を見て槍をどけて、マルガの方へ歩き出す。
止めなきゃいけない。なのに、俺の体は動かない。マルガの方を見たまま視線は動かせず、膝に力が入らなくて地面についた。なぜこの状況で体が動かないのか。なんで俺は、彼女のあんな顔を見て―――悲しそうに、それでもうれしそうに笑う彼女を見て、体を動かすことすらできないのか。
「まあ、そんなことはいい。テメエの提案は自分の命と引き換えにマスターを見逃すこと、でいいんだな?」
「ええ、それで。そちらのマスターさんにもお願いしたいのだけれど」
「ウチのマスターはそれでいいっつってるよ。新しくサーヴァントと契約したりして敵対したら別だけどな」
新しいサーヴァントと契約、と言われても。そんな発想を頭が受け入れない。そもそもこの状況を受け入れていないのだから、それも当然なのだろうが。
「その時は、仕方ないわね。でも、そうじゃなかったら見逃してくださるの?」
「そうするつもりっぽいな。まあ俺も、その時はともかくそうでなければ令呪使われるまでは抵抗してやる」
「あら太っ腹、男前なのね。じゃあ欲張ってアフターサービスもお願いしちゃおうかしら?」
「強かで抜け目のない女は嫌いじゃねえが、あんまり欲張るといいことねえぞ?」
「一応、ケルトの流儀に習ってみたつもりだったのだけれど、違ったかしら?」
「ハッ、確かにウチは色んな欲が強いやつばっかりだったな。そう考えてみれば、そんな提案まだ可愛い方か」
そう言うと、ランサーは槍を構える。俺に向けてきたときとはまるで違う、介入できる隙など全く見えない姿勢。一切容赦のない殺戮準備。そこまで見てようやく、体に力が入った。膝に手を当て、さらに力を込めて立ち上がろうと
「カズヤ」
その瞬間、狙ったように。マルガが、俺の名前を呼んで。
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