溝出
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た者も、死体となった者同様に死のリスクを常に抱えている、とは思わないかい?」
それを全部、祟りのせいにしちゃいけないねぇ…と呟いて、奉はゆっくりとドアノブをひいた。
「……全ては藪の中だよ、変態センセイ」
廊下の冷たい空気が、俺達をじんわりと絡めとった。
「結局、リトマス試験紙は使わなかったんだな」
次の電車は15分後になるらしい。タイミング悪かったね、と小さく笑う静流の声に癒される。悪魔の泥沼から這い出して太陽の光を体いっぱいに浴びた気分だ。
「使ったさ」
奉はつまらなそうに小指で耳を掘り、髪をぶるぶると振った。無理矢理洗われた後の犬のようだ。
「いつの間に」
「なに、リトマス試験紙ってのはアレよ、静流だ」
「は!?」
「未来視が嫌々ながらも茶会に出たってことは、今すぐ殺されるような罠は無いってことだろう」
便利だねぇ、未来視。と仏頂面で肩の埃を親の仇のように払い落とす。やはり奉にとってもあの空間は異様で、不快なものだったらしい。静流は『そ、そうなんですか…』などともごもご口ごもりながら、困り顔で俺を見上げる。
「お前…そんな炭鉱にカナリア連れていく感覚で…」
「勿論、静流の様子が極端に変わったら引き返すつもりだったよ」
うっわ、こいつ静流の未来視使い倒す気満々だ。
「あとはアレだ。勿体ぶらないで教えて欲しいねぇ。…あの病院で一体、何が起こるんだ」
穢れを払い終えたらしい奉が、仏頂面のまま静流に向き直った。
「えっ…あの…云えません、まだ…」
「そうかい」
嫌味の一つでも云うのかと思っていたが、奉は意外にもあっさりと引き下がった。
「ま、いいや。お前、意外と強情なところがありそうだしねぇ」
その声色は明るかった。煙色の眼鏡はまた、肝心なところでその表情を隠してしまうのだが。
「ただ…一つだけ」
―――あの先生は、もう助かりません。
その言葉はあまりにも、いつも通りの静流から発された。
困ったような、怯えたような表情のまま。
「……ほう」
「この前会った時は、ここまでじゃなかったです。あれ、このままだと危ないな、くらいだったのに。今は」
今は…までで、彼女は口を閉ざしてしまう。
「病院のほうも、前に見た時よりずっと…悪くなってる。良くない未来に傾いています」
「もう、戻れない程度にか」
「どうだろう…本当に、大まかな絵しか見えないんです」
奉は俺に目配せをしてきた。…良くない方向に向かっている理由は、俺と奉だけが知っている。ただ俺が想定しているのは、地下室に眠る秘密の暴露と、それによる風評被害くらいのものなのだが。
「その『良くない未来』てのは、変態センセイの未来と連動しているのかい」
静流は僅かに首を縦に振った。ホームに入って来た電車が、絹のような黒髪
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