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霊群の杜
溝出
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ザー見せては。
「ひゃああん、かっわいぃ、無防備ぃ!うんうんいいねぇ、優しくてちょっと臆病なキミらしいよ!」
「……臆病?女の子なのにこんな会合に出席している時点で相当な勇者だからな?」
俺らのやりとりの間、奉は自分の紅茶とスコーンを薬袋氏のと取り換えていた。薬袋氏はまた抜かりないぃぃ!とか大喜びだ。この男の喜びスイッチは何処にあるのか。
「でもまぁね、僕も最初のお茶会で悪さするほど無粋じゃないよ。まぁ、そっちのキミは」
実にいい、妊婦になりそうだけどねぇ…と、にまにま笑いながら静流の頭の先から爪先まで眺め回した。
「お前」
「出来ないから云ってんだよ、落ち着け」
椅子を蹴って立ち上がりかけた俺を抑えて、奉がにやりと笑った。
「んー、凄い好みなんだけどね。地元の有力者を敵に回すわけにはいかないからねぇ」
病院経営って、ままならないよねぇ…と呟きながら、彼は紅茶にミルクを回し入れて一口啜った。…紅茶は大丈夫っぽいので、とりあえず何も入れずに口を付けた。俺が動かないと、他の二人は微動だにしない。そういうメンバーなのだ。
「…多分大丈夫だ。さっさと茶を呑んで帰るぞ」
静流が死にそうな顔色でカタカタ震えながらカップに口を付ける。いつもは阿呆ほど入れる砂糖には一切手を付けない。


本当に、まじでさっぱり分からない。これもうお茶会の空気じゃないし、あいつ一体なにがしたいんだ。


「―――水槽、減ってると思わない?」
スコーンに木苺のジャムをたっぷり塗って静流の前に置きながら、薬袋氏が俺達を上目遣いに見た。改めて見直したくもないが、確かに以前来たときよりもこう…室内がスッキリしている気がする。
「嫁にまで逃げられたのか?」
くっくっく…と喉の奥で笑いながら、奉はジャムをたっぷり塗ったスコーンを頬張った。…こいつ、よくこの部屋で物を食う気になるものだ。俺は機械的に紅茶だけを喉に流し込む。
「んー…あれは『逃げた』と云っていいのかなぁ」
薬袋氏は視線を僅かに空に泳がせ、語り始めた。


母子の水槽から子供が消えた日から数日、薬袋氏は奇妙な水槽を見つけた。
真ん中から綺麗に千切れた『妻』が、くらげのように水槽内を漂っているのだ。
綺麗に、とはいったが比較的綺麗なだけで、やはり千切れていることには変わりがない。急な損壊…にしても状況がおかしいので、一旦水槽の中から引っ張り出そうとしたとき、妙な事に気が付いた。
「骨が、無くなっていたんだよ。一片残らずね」
…紅茶すら、喉を通らなくなってきた。隣で震える静流は、もう居るだけでいっぱいいっぱいなのに、取り分けられたスコーンをもそもそ齧っている。何故、こんな頭おかしい男に対してまでここまで律儀なのだろうか君は。
「ふぅん…骨は、何処かで見つかったのかねぇ?」
くすくす笑
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