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霊群の杜
溝出
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たちはあの病院に辿り着いてしまった。




「こんな禍々しい建物が、電車でわずか15分の場所にあると思うと厭な気分だな…」
「車でも15分だったねぇ…」
ここいらでも新興住宅地と呼ばれる場所に寄り添うような立地。いや、住宅地が病院に寄り添った結果なのか。評判は悪くないようで、今日のような平日の昼間は、広く清潔なロビーのソファーは8割、患者で埋まっている。
鴫崎の嫁が夜中に産気づいた日、ここに車で駆けつけた。冷え込む晩秋の深夜、奉と二人で無言で車を飛ばしている時間はひどく長く感じたが、そうか。15分程度だったのか。
「私、この病院には来ないようにしてました…」
さっきまで妙に変態センセイの話に食いついていた静流が、急に言葉数を少なくして俯いてしまった。
「そうか。患者が多い割りには待ち時間も短いし、変態センセイ以外はまぁ、まともな先生が多いけどなぁ」
静流は何か云いたそうに俺を見たが、俺が覗き込むと2,3回頷いて黙ってしまった。
「何か視えているのか、静流」
ふと何かを見とがめたように奉が問い質す。静流は一瞬だけ何かを云いかけたが、そっと首を振った。
「は、云いたくない…か。まぁ、未来視に頼るような案件でもないがねぇ。なぁ結貴」
奉は羽織を肩から滑らせ、軽く縦に折って腕に掛けた。院内はエアコンが程よく利き、上着を着ていると汗ばむ程だ。
「あの男は、土地の神を怒らせたからねぇ…変態センセイ一人が屠られるだけで済めばいいが」
「……これは『そういう事』なんでしょうか……」
「知るか。俺は未来視じゃねぇんだよ。俺の答えが欲しいなら、何が視えているのか話せ」
「………」
静流さんはあの男の『邪恋』に、薄々気が付いているのか、それとも単純に視界に飛び込んでくる『未来』に怯えているだけなのか。…奉と静流のさぐりさぐりな会話からは見えてこない。
俺はダッフルコートを腕に掛けると、今日も混雑しているロビーを改めて見渡した。…俺は『視える』質ではあるが、この病院でそんなに桁外れにやばいものを視た事はない。そりゃ、人の生き死にに関わる施設だから、ある程度は『居る』のだが、この程度であれば他の病院にも居る。もっとやばいのが居る病院だってあるくらいだ。
「探しても無駄だ」
呆れる程に高い吹き抜けの天井を見上げるようにして、奉が呟いた。
「未来視を舐めるんじゃない。静流とお前とでは、視える次元が違う」
そんなことは分かっている。
ただ静流が、たった一人で未来に怯えていることが苦しい。肝心なところで口を噤んでしまうことも。
それは恐らく、一人二人死ぬ程度では済まないような『大事件』。それを示唆する何かが、静流には視えているのだろう。
決して他人に助けを求めない子ではない。助けを求めても無駄と判断したことは、話すこと自体、諦めてし
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