第3章 儚想のエレジー 2024/10
19話 足取りは重く
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夏の盛りだった八月のとある日、そのとある夜。後に《笑う棺桶討伐戦》と呼ばれるに至った凄惨な死闘が幕を下ろし、血盟騎士団団長との未明の密会から二ヵ月が経った。
あれから能動的な攻略組との接触は一切断ち、それまでに与えられていた探索のノルマは違約金を添えて辞退する旨を伝え、俺はSAO攻略の最前線から身を退く運びとなった。
当時の各所からの批難はなかなかのもので、特に討伐作戦に参加したハイレベルプレイヤーからは罵詈雑言を浴びたものだ。俺もその討伐作戦の場に居合わせなかったわけではなかったが、与えられた役目が暗殺者紛いのもので、目標であったPoHと刺し違えることはおろか、むざむざ生き延びた体たらく。何も為し得なかった俺には、命を賭して殺人鬼達を相手取った《正当な功労者》の言葉を粛々と受け止めるしかなかった。
同時に、ただ頭を下げるしか出来なかった俺を、その姿を前にした彼等が見放していくのを実感した。爪弾き者であれ、居場所であることに間違いはなかったが、どういうわけか寂寞感よりも解放感を覚えたのは俺の疲弊故だったのだろうか。今となっては思い返す気さえ湧かないのだが。
おかげで、俺はこうして攻略の最前線というしがらみから逃げ遂せるに至った。引き留められなかった――――全く誰にも、というのは嘘になるだろうが――――からこそ後ろ髪も引かれずに済んだし、どんな理由を付けても内面に悍ましいものを抱えている以上、攻略の場に相応しくなかったのも事実と言わざるを得ない。
どこか感傷染みた、古傷のような記憶を想起するうちに、自室のドアにノック音が響いた。やや陰鬱な感情を横へ押しやって来客を迎えることにした。
「リンさん、少し相談があるんですけど、よろしいですか?」
部屋の外に立っていたのは、ヒヨリのテイムモンスターである――――一歩間違えれば保護者なのだが――――ティルネルが立っていた。SAOの舞台であるこのアインクラッドにおいては《黒エルフ》と呼称される種族であり、本来は敵対NPC扱いである彼女だが、プレイヤーから向けられる言語に対する高度な返答を可能とするAIと、彼女が今の形態に至るまでの特異極まる経緯によるイレギュラーなのか、テイマーであるヒヨリよりも何らかの方針決定には何故か俺を訪ねてくることが多い。
テイムモンスターの行動パターンは主にテイマーを中心に行われるらしいが、その点はやや臨機応変に富み過ぎているとも感じる。その点についてティルネルに問うたところ、「ヒヨリに相談すると心許ない返答しか返ってこない」という至極真っ当な理由を聞かされたときはティルネルの異常性よりもヒヨリの適当加減に頭を抱えたものだ。
「新しいポーションの材料について、か」
「どうして分かるんですか
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