第3章 儚想のエレジー 2024/10
19話 足取りは重く
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そういうと、ティルネルはやや不機嫌そうに腰のポーチから四つ折りにした羊皮紙を俺に手渡す。
ティルネルを始めとする黒エルフ族や、このアインクラッドにおける至る所で見られる変形したアルファベットのような彼女達の母語ではなく、漢字や片仮名や平仮名で記された見慣れたようでどこか懐かしい文字列は確かにティルネルの認めたものではないと訴えかけるようだった。これは説教を頂きそうだが、このプレイヤーホームの中では最年長――――アインクラッドが正式サービスされた時か、それともベータテスト時かでやや異なるが、実年齢を厳密に起算すると最年少になりかねないのだが――――のエルフのお姉さまからの含蓄あるお言葉と受け止めよう。平たく言うと諦めである。
だが、文字列を読解するに、やや不可解な点が散見されることに気付く。これ自体はティルネルの責任というわけではないが、自信を持って提示された割には不安というか疑問を感じずにはいられないものだった。具体的には箇条書きの情報群はそれぞれが合致しない、ちぐはぐなものだった。
「ここには、薬草とやらが三十九層の北エリアで発見されたって書いてあるんだが」
「………えぇと、そうなんですか?」
ティルネルは俺の横で羊皮紙に視線を向けて文字を目で追うものの、どうにも釈然としないような表情で首を傾げる。というのも、SAOではプレイヤーが筆記するにあたって二種類の手段が存在する。一つは紙とインクで手ずから文字を書き込む手法。《対象指定モード》によって指先から紙の表面をスワイプしてインクが作用する範囲を指定することで字の如く書く動作を行うというもの。もう一つはキーボード入力によって文書を紙面に起こす手法。手書きとキーボード入力でインクの消費量がやや異なるというところに細かすぎるこだわりを感じるが、この話の要点は即ち、プレイヤーの手書きによる文書はNPCには文字として認識されないというシステム上の問題が発生するというもの。ティルネルからしたら、手書きの文字はどんなにキーボード入力の活字に似せても模様か、奇妙な線の乱立にしか認識出来ないのだという。
もちろん、それを承知しているからこそ読み上げて確認しているのであって、決して情報の不可解性を責めているわけではないと明言しておこう。
「それを、一層在住のプレイヤーが採集したとある。しかも、自力で入手したと」
「………浮遊城の魔物は本来ならば、階層を登る毎に強くなり危険性を増すはず。………こんなことって在り得るのでしょうか?」
「不可能ではないだろうさ。モンスターに会わなければ危険性も何もない。戦闘で撃破することも否定出来ないだろうさ。だが、それを成し遂げるだけの技量を持ちながら一層に留まるプレイヤーとなると、かなり限定される」
羊皮
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