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俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
期を逸したお蔵入り短編
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に気付いた時、俺はこの世のものとは思えないほどの悲鳴を上げて狂乱した。俺が生きていくために絶対に必要な腕が――忠誠を誓うために掲げた剣を支えた腕がないという端的な事実を、どうしようもなく受け入れきれなかった。

 ファミリアを出て歩いていても、気が付いたらバランスが取れずに転んでいる。その度に、剣士生命もろとも断たれた腕を返してくれと思った。見ず知らずに相手に助け起こされるたびに、俺は自力で立ち上がれないという事実に打ちのめされた。

 周囲の蔑みの眼と憐みの目が注がれる右肩の先。
 ある筈のないパーツが抜け落ちた空白。
 硝子に移るそれを見る度に、俺はその現実を振り払いたくてガラスを割ろうとし――割る為の右腕が無いがために何度もみっともなく尻もちをついた。

 腕がないというのは、この世界では致命的だ。
 腕が日本あることを前提に構築されたこの世界では、片腕の人間は労働力として見なされない。何故なら両腕と比べて圧倒的に一つの作業をやりにくいからだ。掃除をしようとすれば満足に雑巾を絞れない。皿洗いをしようとしたら皿を磨けない。肉体労働では両腕を使う仕事が一切できず、おまけに利き腕を失ったせいで文字も満足に書けない。

 ただ着替えをするだけで、俺は途方もない労力を使った。いつかは慣れる、早くなると慰めの言葉を貰うこともあったが、それは俺の壊れた心に何の潤いも齎しはしない。俺の人生は、俺の夢は――ゼウス・ファミリアを越えるファミリアとなってあの方に仕えるという夢は、永遠に思えるほど遠のいてしまったのだから。

 俺は、屍だった。
 身体は生きていても、その心は死んでいた。
 生きる事も出来ず、死ぬことも出来ず、何も出来ずにこの世界を漂う(あし)だった。

「腕さえあれば……腕さえあれば……ッ!!」

 たった一本、なくしたものさえあれば、こんな地獄は覆せたのに。
 歪になったシルエットの肉体を抱えたまま、俺は呪詛のように何度も呟いた。

 そんな屍にもう一度生命を吹き込もうとした神が降臨したのは、俺が三日三晩に渡って嘆き苦しみ、その感情がこの世界への憎悪に歪みつつある、そんな時だった。

「腕さえあれば――何と申すか」

 それが、悪夢の終わりと困惑の始まり。そして――。



 = =



「ガウル……ガウル・ナイトウォーカー。いい加減に目を覚ますがよい」

 ゆさゆさとゆすられた俺は、そのくぐもった声に寝ぼけ眼を開く。
 そこは、本当に眷属が一人しかいないとある神の家。あの後俺を拾い、ファミリアとして受け入れた神の家だ。声の主を察した俺は、揺さぶった人物に上半身を起こして挨拶する。

「おはようございます……久しぶりに夢見ました、メジェド様」
「むむ、おはよう、ガウル。随分
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