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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 47
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も、八つ当たり染みた恨み言でもなかった。

「どうして……! どうして、助けられなかったの?? どうしてっ??」

 愚かで無力な自分への憤り。
 理不尽な世界に放つ慟哭(どうこく)
 堪え切れなかった涙が次々と球になり、彼の衣服を滑り落ちていく。

「助けたかった! 護りたかったのよ?? もう、マーシャルも誰も彼もが、苦しまないようにって?? 生きたいと願う皆が生きていけるようにって??」
「ああ」
「なのに、どうして! どうして私が、あんな……っ」

 あんな、細く頼りない体の少女を、死なせてしまった。
 自分の手で、最悪の状況に追い込んで。
 身も心も擦り切れるまで苦しめて。
 そうして、殺して、しまった。

「助けたかったの、に……」
「……ああ」

 頭を抱える腕に力が籠った。
 頭上で眉を寄せる気配がした。
 それだけで、彼にも彼なりの怒りや葛藤があったのだと、気付く。

 助けたくても、助けられなかったんだと。
 万民の上に立つ王族だからこそ、どうしようもないことがあるのだと。

 ……いや、違う。

 本当は、彼に諭されるまでもなく、最初から解ってはいたのだ。
 ただ、認めたくなかっただけ。
 持っている者は、持たざる者に等しく無償で手を差し伸べるべきだと。
 それが義務だろうと。
 そんな風に、心のどこかで根付いていた甘えと怠慢を。
 生まれた瞬間に何もかもすべてを与えられ、無条件で護られているように見える者達への、羨望と(ひが)みを。
 自分自身の弱さと醜さを、認めたくなかっただけ。

 けれど、権勢を振るう王侯貴族だって、所詮は人間でしかなくて。
 人間には必ず限界がある。
 それこそ、助けられる命の数にも。

「……くやしい……」

 自分自身は失敗を恐れて努力や助力を惜しみ、重い腰を上げたとしても、旗色が悪くなればさっさと逃げ出すクセに、他人には己にとって都合が良い結果ばかり要求することを、人は『無責任』と名付けていた筈だ。
 責任逃れを前提で好き勝手に暴れ回っていただけの自分が。
 いったい誰を、何を救えると思っていたのか。

「くやしい……っ くやしい??」

 閉じた扉の内側に佇む騎士達もきっと、似たような想いでいたのだろう。
 年若い背中に腕を回して綺麗な布地に深いシワを刻み付けるハウィスを、物言いたげな顔で一瞥(いちべつ)はしても、咎めたりはしなかった。



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