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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 47
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認めたくなかっただけ。
 持っている者は、持たざる者に等しく無償で手を差し伸べるべきだと。それが義務だろうと。そんな風に心の何処かで根付いていた甘えと怠慢を。生まれた瞬間に何もかもを与えられ、無条件で護られているように見える者達への、羨望と僻みを。自分自身の弱さと醜さを、認めたくなかっただけ。
 けれど、権勢を振るう王侯貴族だって所詮は人間で。
 人間には必ず限界がある。
 それこそ、助けられる命の数にも。
 「くやしい……」
 自身は失敗を恐れて努力や助力を惜しみ、重い腰を上げても旗色が悪くなればあっさり逃げ出すクセに、他者には良い結果ばかり要求する事を、人は「無責任」と名付けていた筈だ。
 責任逃れ前提で好き勝手に暴れ回っていただけの自分が、いったい誰を救えると思っていたのか。
 「くやしい……っ くやしい!!」
 閉じた扉の内側に佇む騎士二人もきっと、彼と似たような想いでいたのだろう。年若い背中に腕を回して綺麗な布地にぐしゃりと深い皺を刻み付けるハウィスを、物言いたげな顔で一瞥しても、咎めたりはしなかった。

 数日後。
 意識を取り戻してからは一度も会わなかったブルーローズの仲間十二人が、軍属騎士としてエルーラン王子の指揮下に入ったと事後報告にやって来た。
 権力者を嫌う彼らの決断にも驚いたが、何より耳を疑ったのは、マーシャルの「クナート達と一緒にバーデルへ移住する」という言葉だ。
 「もう止めて、マーシャル! これ以上、貴女が傷付く必要なんて無いのよ! エルーラン王子が言う通り、貴女は一般民に戻って……」
 「甘いこと言わないで! あの王子が、意味も無く無償で義賊(てき)を助けると思う!? 姉さんも本当は気付いてるんでしょう? 生きてこの国に居る限り、私達は互いにとっての人質にされるんだって! 私は、姉さんを権力者の操り人形なんかにさせたくないし、姉さんを利用する為の道具になんて絶対なりたくないの!」
 エルーラン王子はまだ、政界に顔を出したばかりの新人領主だった。
 多少の実務は学徒時代から経験していたものの、各国要人の目に留まるような大きな功績は「わざと」残してこなかった為、各方面で青二才と侮られているらしい。リアメルティ領を正式に継いだ後も前領主を代理として立てていたのは、居を構えている王都と領地が離れているから……だけではなく、貴族間の勢力図を上書きするには時期が早いと判断したからだという。
 右も左も分からない無力な王子を装って権力者共を欺き、学び舎の外で世界情勢を見極める傍ら、自らの足場を固める目的で騎士団以外の固有戦力を探し求める余裕を得ていた。
 自然消滅寸前の孤児集団(ブルーローズ)を丸ごと拾い、ハウィスを助けてやる。その代わり、他の者は当面の間素性を隠してネアウィック村で仮労働してろと提案し
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