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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 47
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()()()のだ。

 一般民ですらない自分が、彼らを害すれば。
 彼らと一般民との間に位置する人間、全員に波が立つ。
 一度立った波は人々の間で上も下もなく反復して岩壁を削る荒波となり、階級の枠を越え、やがてアルスエルナ王国の根底をも覆してしまうだろう。
 濁流の犠牲者は常に、弱い者から順に生まれる。
 元は貴族の末端だったであろう、あの少女のように。
 犠牲者をこれ以上増やしたくないなら。
 どんなに憎く思っていても、支配層(かれら)に刃を向けてはいけない。

 苦しむ者達を救う力なんて、自分には無い。
 そうと思い知らされたハウィスは、布団を強く握り、血が滲むほどに唇を噛み締め、眼光鋭く彼らを睨みつけるしかできなかった。

 ハウィスのそんな態度が気に入ったのか。
 アルスエルナ王国第二王子ソレスタ=エルーラン=ド=アルスヴァリエと名乗った彼は、満面の笑みでベッドの横へと歩み寄り、ハウィスの頭頂部に ぽん と、手のひらを乗せた。
 一瞬、何が起きたのか解らなかった。

 髪が擦れる音と頭皮から徐々に伝わってくる他人の熱を感じてようやく、頭を撫でられていると気付く。
 何のつもりかと訊けば、彼は「褒めてる」と答えて、笑みを一層深めた。

「お前達は方法こそ極端に間違えていたが、諦めだけは受け入れなかった。自身に降り掛かる危険は顧みず、南方領、一般民の窮状をどうにかしたいと声を上げ続け、自身の過ちに気付くまでは決して立ち止まりはしなかった。その願いと意志は尊ばれるべきものだ」

 ふざけるな!
 誰のせいで皆が苦しんでると思ってるんだ!

 などと叫ぼうとしても。
 開いた唇が……体の芯が震えて、声にならなかった。
 彼に向けた怒りはすべて自分自身に跳ね返ってくることを。
 ハウィスは既に知っている。

「私が見聞きしてきた限りじゃあ、どこの世界でも勘違いしてる奴のほうが圧倒的に多いんだが。高権というものは本来、治者が己の役割を果たす為の道具に過ぎないんだ。断じて他人の意思をねじ伏せる為の圧力じゃない」

 王族や貴族の方針に、どうしても納得できない部分や、聞き入れてほしい意見があるなら、地面に向かってぶつくさ文句を連ねてないで
 まずは批判や意見の根拠となる政策や事情を複数人で細部に亘って検証し
 己とは違う立場の者達とも話し合いを重ね
 問題点を明確にした上で、代替案や修正案を構築し
 それが実施された場合の具体的な将来像と、提案の形成に用いた材料まで全部まとめ切った文書なり言葉なりを、交渉相手が無視できない舞台を作り上げてから公表し
 近隣領民、または全国民に対して、広く是非を問うべきなんだ。
 結果好ましいと判断されれば、たとえ相手が国王陛下であっても
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