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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 47
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き、ぎこちなく頭を振って拒絶を示すハウィス。
 だが、ティルティアは眉尻を下げ、「今は答えなくて良い」と苦笑いを返した。
 「とりあえず、今日は私の考えを伝えておきたかっただけ。貴女が自力で歩けるくらいになったら、改めて話を聴いて頂戴。貴女一人の問題ではないし、よく考えてから結論を出してほしいの」
 父親は、予期せぬ海難で命を落とす危険と常に隣り合わせな遠海漁師。母親は病に侵され、これから先は家事も育児も儘ならなくなる。
 確かに、幼い子供の恙無(つつがな)い成長を願うなら、ずっと傍に居てあげられる存在の確保は急務だろう。
 が、アルフィンに対して恐怖を抱いている以上、どれだけ考えても此方が出せる答えは一つしかない。
 それでなくても自分は、殺してしまった少女に似ているだけの無関係な女の子を避けたがる酷い人間だ。よりによって避けようとしていた女の子本人の将来を預けられても困る。何を思って自分を選んだのかは知らないが、頼むから他を当たってくれ……と、はっきり断りたかった。
 でも。
 「できれば、貴女を含むみんなに、幸せでいてもらいたんだけどね」
 嫌だ の一言も満足に操れないハウィスを残し、母娘は部屋を、家を出て行ってしまった。
 そして。
 娘を抱えて優しく微笑む母親の姿を見たのは、その日が最後だった。
 話なんか聴きたくない。回復した後にアルフィンを預からなきゃいけないのなら、いっそこのまま殺してくれ。
 目蓋の奥で少女の笑い声に謝りながら、閉じた窓を叩き付ける雨粒の気配に安堵を覚え。暖かな陽射しと穏やかな潮騒、海鳥の軽快な鳴き声に怯えた数ヵ月を経て、喉を傷めない声と屋内を自由に動き回れる体力を取り戻し。ぱたりと途絶えた母娘の訪れに、疑問と僅かな不安を感じ始めた頃。彼は突然現れた。
 「……ふーん? 一応の学習能力はあるのか。なら、手間暇掛けて連れて来た甲斐があったな」
 首筋で括られた、肩に掛かる長さの硬質な金髪。瑞々しい若葉を連想させる緑色のつり目。一般民が着用するには堅苦しく仰々しい装い。十人並みな十代後半の少年らしい顔立ちと、親しみやすい口調に反した重厚な威圧感。
 ハウィスは一目で彼を「敵だ」と認識し、ベッドの上で上体を起こして身構えた。
 同時に「手を出してはいけない相手だ」とも判断し、膨れ上がった敵意を必死で抑え込む。
 武力行使で敵うかどうか。その点に限れば、恐らく回復直後の自分でも勝てる。彼の背後に立つ騎士二人を手数に含めるなら、余裕で……とは言えないが。少なくとも負けたりはしない。彼らは未熟の域を出ていない。
 けれど、「勝ってはいけない」のだ。
 一般民ですらない自分が彼らを害すれば、彼らと一般民との間に位置する者達全員に波が立つ。一度立った波は人々の間で反復して岩壁を削る荒波となり、階級の枠
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