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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 47
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 大戦終結後、十数年。 
 世界中で漂う憎悪の念や血脂が放つ悪臭を前に、各国の法政やら個々の理性やらが未だ混迷していた時世。
 片親の不義や人格を無視した性暴力が原因で、父母とされる二人の外見的特徴を受け継がない子供はそれほど珍しくなかった。
 しかし、血の繋がりは確かでありながら親類縁者の誰とも異なる左右非対称の目色を持つ子供は、時代を問わず、世界的に見ても極めて稀だ。
 あまりの稀少さ故に一部の好事家達の間では、一度でも彼らと顔を合わせる機会があれば、その後は生涯を閉じる瞬間まで夢としか思えない幸福に満たされるか、はたまた筆舌に尽くし難い災厄に見舞われ続けるだろうと囁かれていた。
 そうした「事象に関して明確な根拠が一つも提示されていない」「実像が曖昧な」所伝からも分かる通り、彼らには血統による特徴の継承や、それに基づく独自の共同体……一族と呼べる性質が無く、また、「虹彩異色『症』」と呼称されつつも、目の色が左右で違う他に共通する特異性等は殆ど見当たらず、時には両目共血縁とかけ離れた色になる原因も判っていない事から、医学・生物学の見解上『病』というより『突然変異』に分類されている。
 当然、彼らと親交を結んだ人間も数は少なく、世界各地であらゆる情報を掻き集めて共有する各国の外交官や商人や語り部達でさえ、時折偶然耳に入る各地元民の密やかな噂程度でしか存在を把握できないのが実状だ。
 だからこそ。
 ただでさえ珍しい少女の双眸は、自らの行いが引き起こした惨劇の証として、ハウィスの脳にこれ以上無いほどくっきりと焼き付いていた。
 歳を重ね、やがて自分や周囲に関する記憶が掠れ消えてしまっても、()の少女の容姿だけは絶対に忘れたりしないと断言できる……そんなハウィスにとって、目に限らず髪や肌までもが少女と全く同じ色合いを有するアルフィンは、まさしく『罪悪と恐怖の象徴』だった。
 幼子らしい真っ直ぐな眼差しが、いつ何時(なんどき)嘲笑の形へと豹変し、「どうして私があんな目に遭わなきゃいけなかったの? 人殺しのお前は、今でも誰かに護られてぬくぬくと生きているくせに」と詰ってくるか。考えるだけでゾッとした。
 勿論、アルフィン自身にハウィスを責める意図は欠片も無い。
 彼女はただ単に、弱り切った姿で寝込む女性を心配してるだけ。
 それはハウィスにも伝わっていた。解ってはいる、けど。
 彼女の裏が無い思い遣りは理解していても、少女に酷似した虹彩と顔立ちが「何処へ逃げても無駄だ。お前だけは絶対に赦さない。際限が無い痛みと苦しみを思い知れ」と告げているようで、どうしても直視できないのだ。
 彼女(アルフィン)と同じ家で同じ時間を過ごしてほしいというティルティアの願いは、とてもじゃないが受け入れられるものではなかった。
 涙に濡れた両目を見開
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