ターン78 鉄砲水とシャル・ウィ・デュエル?
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「あのー、すいません」
「……」
「しょ、少々お時間の方頂いてもよろしいでしょうか……?」
「……」
「え、ええと……」
胃が痛くなる緊張感に包まれ、爽やかさのかけらもないただただ不快なだけの嫌な汗が全身から流れるのを感じる。ともすれば零れ落ちそうになる決意と勇気をどうにか寄せ集め、カラカラになった口を必死に動かして言葉を紡ぐ。
「む、夢想さん……」
「私忙しいから。じゃあね、ってさ」
「あ、えっと……はい」
駄目。もう限界。その場にへたり込みそうなほどの疲労感と敗北感がずっしりとのしかかってくるのを尻目に、その当の本人である彼女……河風夢想は僕のことを一瞥すらせずに背を向けて女子寮の中へ回れ右していった。いかにも高級そうな扉が重々しく閉ざされ、それがまた彼女の拒絶の意思を嫌というほど強調する。
「天下井さん、これで何回目でしたっけ」
「日数なら今朝で4日目。あの方がおへタレになった回数なら3日前からざっと63回目ですわ」
随分と失礼な会話と共に手元のメモ帳に今回の結果を書きこみながら校舎の影からこちらを見ていた2人の女子生徒は、代行使いのお嬢こと天下井ちゃんにいつもの葵ちゃん。天下井ちゃんはまだ覗き見に罪悪感があるからか目を合わせるとさっと視線を逸らすぐらいの可愛げがあるのだが、問題はもう1人の方だ。彼女が今更変に遠慮するようなタマじゃないことは、僕が一番よく知っている。
「……おはよ、2人とも」
「おおおおはようございますですわ、ワタクシたまたま、そう、たーまーたーま!たった今!ここを通りかかったのですが、本日もいい天気ですわね!」
「いやめっちゃ曇ってますし、そもそも先輩最初っから気づいてましたよ。おはようございます、今日も元気にへタレてますね」
「今日ばっかりは何も言い返せない……」
「当たり前です。そこで先輩が下手に言い訳を重ねる程度の男だったら、私もとっくに見限ってます」
「で、ですわね!」
相変わらずド直球な物言いではあるが、そのストレートさが今の僕にはむしろありがたい。下手な同情や気遣いは、余計に気まずくなるだけだ。
「今回ばかりは先輩が悪いですからね。ミスターTでしたっけ?隠すなら最後まで隠し通す、打ち明けるなら報告連絡相談は即座に。半端に隠して結局ばれるだなんて、それは河風先輩も怒りますよ」
「うぐっ」
「そもそも、ついこの間まで河風先輩がどれだけ先輩のことで心を痛めてたかはわかっていたんでしょう?私達が砂漠の世界から帰還してからは先輩がいないって知っただけでどんどん衰弱していって、見ていられなかった……のは、私がいちいち口にしなくてもよく知ってますよね?ならなんで、まだそういうことするんですか。少しは懲りたらどうです?」
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