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憂いの雨と陽への祈り
山嵐のジレンマ
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の敵なら問題にならないだろ? 頼りにしてるぜ、《惨殺天使》」
「その呼び方はやめて欲しいです、《舞姫》ちゃん」
「てめえ……」
呪詛の篭った声を上げるとアマリは笑いながらも後退する。 その動作に連動して「ユーリちゃんが怒ったですー。 きゃふー」と無駄に高いテンションを披露しているのが尚更ユーリの心を掻き乱す。
「まあいい。 さっさと行くぞ。 お前だって旦那に会いたいだろ?」
「今は別居中なのです。 フォラスくんが謝るなら許して上げるかもしれないこともないかもしれないのです」
「それ、結局どっちなんだ? いや、いい。 何も考えてないのはよくわかったからそんなに首を傾げんな」
狭い通路に入り、肩を並べて歩きながらも馬鹿話は止まらない。
危機感がすっぽり抜け落ちているのはなにもアマリに限った話ではないようだ。 ユーリもまた、油断していた。
繰り返される低レベルの敵との戦闘。 命の危機のない現状。 出てくるモンスターはアマリが全て平らげてしまい、戦闘らしい戦闘をしたのは砂漠でが最後で、それ以来とんとしていない。
だから緩んでいたのだろう。 それを責めることは、きっと誰にもできない。
だが、世の中にはこの状況にぴったりの言葉がある。
油断大敵。
「ユーリちゃん!」
突然、アマリが切羽詰まった悲鳴のような声で名を叫ぶ。 索敵のアラートは鳴らず、けれどユーリ目掛けて針のような何かが飛んできていた。
視界に入った時には既に遅い。 気がつけば回避不能のタイミング。
それでも反射的に左手で顔を庇い、その瞬間軽い衝撃と共に全身の力が抜けていった。
「なっ……」
麻痺毒。
地に倒れ伏すまでの刹那でユーリはそう理解した。
ユーリはソロ、あるいはコンビでの狩りを主としている。 周囲の助けがない状況での麻痺などは致命的で、故にタンク職でもないのに耐毒スキルを相当に鍛えていた。 加えてユーリが保有する人狼スキルの『戦闘系スキル全般のレベル向上』と言う破格の効果がほぼ常時発動しているため、ちょっとやそっとの毒は麻痺に限らず高確率でキャンセルできるはずだった。 フェイスチェンジを使って獣耳や尾を隠している状態ではその効果も望めないが、今はそれを発動してはいない。
だが、だがしかし、だ。
耐毒スキルは確かに便利なスキルで、低レベルの毒であれば高確率で防げるものだが、しかしその確率はどれだけスキルレベルを上げようと100%にはならない。 99.99%の確率で毒を無効化するのが上限であり、それはつまり0.01%の確率で毒を被ってしまうと言うことだ。
そして今。 0と言ってもいいはずの0.01%をユーリは引き当てた。 引き当ててしまった。
「逃げ…
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