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幻影の旋律
桜色再び
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するのは危険だと判断したリンが同行を申し出た形だ。
もっとも、アマリに捕捉されるかもしれない通行人が危険な目に遭わないかの心配である。 余程のことでもない限りアマリに危険が迫ることはないと、信頼以外のナニカで確信しているのはリンだけではないだろう。
「それにしてもお前があいつと別行動するとは思っていなかった。 旦那と一緒にいなくていいのか?」
「私たちは一緒にいる時間は多いですけど、別にいつもいつでも一緒じゃないですよ」
「そうなのか?」
反射的に聞き返しながらリンは正体不明の違和感に苛まれていた。
なにかが決定的に間違っているかのような感覚。 なにがどう間違っているのかわからないが、それが取り返しのつかない類のことのように思えてならない。
「ところでリンにーさん」
ふと、隣を歩くアマリが明るい声を発する。
見ればただまっすぐだけを見据えていて、リンを見てはいない。 けれどそれはいつかのようにリンの存在を締め出しているわけではなく、視線を合わせたくないだけのように見えた。
「リンにーさんは怒ってないですか?」
「怒る? なにをだ?」
「わかっていて惚けるのは感心しないです」
むう、と唇を突き出しての抗議。
その所作は穏やかで、あの時の狂気の片鱗は僅かたりともなかった。 そこにいるのは普通に普通の少女だ。
それでドンドンと違和感が加速していく。
「今回に限って言えば隠蔽を使っていた俺に非があると言えなくもない。 怒っていないと言えば嘘になるが、かと言って実害があったわけでもないしな」
「いきなり襲いかかられるのは実害じゃないですか?」
「……いや、実害だな」
変なリンにーさんです、と朗らかにアマリが笑ったところでリンは違和感の正体に気がついた。
アマリと会話が成立しているのだ。
リンの中でのアマリの印象は《人語を解するが会話の成立しないモンスター》だ。 『あはー、ぶっ殺すですよー』で全てを終わらせてしまう類の、人間以外の法理を持ったナニカ。 だと言うのに今は会話が成立していて、あまつさえ談笑までしている。
リンよりも付き合いが長くて深い戦乙女の面々もアマリのことを《常識の通用しない相手》として認識していると聞いた。 つまり彼女たちもアマリの異常性を知っていて、アマリは異常なのだと理解しているのだろう。 もっとも、それを踏まえても友人として遇している辺りが彼女たちの特異な点であり、だからこそのあの人望だ。
しかし、今リンの隣を歩くアマリは至って普通の少女だった。 喋り方は緩いままだが、それだって十分に普通の許容範囲内で、少なくとも異常者とまでは言えない。
ならばこれは、自身や彼女たちの認識が間違っていたのだろうか?
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