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幻影の旋律
燐ちゃんの憂鬱
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アマリ。
《惨殺天使》アマリ。
物騒極まりない二つ名を戴くその少女をリンが間近で見るのは、ボス攻略を除けばこれが初めてだった。 常にアマリの隣にいる少年の兄が友人であり、アマリの姉とも交流があるのでニアミスは何度かあったが、いずれの機会でも言葉を交わす機会はなく、《顔は知っているし名前も知っているけど知人とは呼べない》と言う奇妙な関係が続いていたのだ。
もっとも、攻略組のプレイヤーたちの多くがリンにとってはその位置付けなので、別段特筆するようなことでもないだろう。 むしろ先ほどの一幕だ。
薄暗いダンジョンの安全地帯。 リンの目の前にアマリが立ち、背中には硬質な壁の感触。
まるでアマリがリンを追い詰め、殺してしまおうとしているようにも見える。 ……否、《まるで》でもなければ《殺してしまおうとしているようにも見える》ではない。
まさに殺そうとしているのだ。
自身の真横を通り過ぎるアマリの細い肩を、色々な思惑で掴みにいったリンの右腕が弾かれ、その直後に身体ごと壁へと吹き飛ばされたのだ。
突然のことに呆然としたリンを見下ろすアマリの瞳には一切の興味も感情もなく、ただ狂気が灯っていた。 それは恐怖するには十分すぎて、実際リンも恐怖で身体を竦ませて見せた。 それを無感動に眺めていたアマリの右脚がスッと持ち上げられ、そして……
ドンッ
と、容赦が微塵も介在しない暴力的な音を立ててリンの顔の間近に突き刺さった。
逃げ道を塞ぐように、あるいは己が優位を証明するかのような行動に迷いはなく、故にリンは内心を悟らせないように顔を恐怖で歪める。
「お前、何をしようとしたですか?」
温度の消失した声。
「お前、私に触ろうとしたですか?」
それは疑問系の形をとっているにも関わらず
「お前、そんなに死にたいですか?」
リンの返答など求めていなかった。
「死にたいならぶっ殺してあげるですよ。 大丈夫。 《でぃーちゃん》なら苦しむ暇もなく一撃で逝けるですから」
抑揚も何もない、ただ狂気によって彩られた死刑宣告。 それは異質で異常で、けれどどこか哀れだった……
「助かった、と言うべきか……」
先ほどまでの怯えようはどこに行ったのか、リンはやや苦い調子ながらも平静を保って呟いた。
惨殺天使からの死刑宣告は友人たちの執り成しでなんとかなった。 当の彼女は既に安全地帯にはいない。 愛する旦那を探しに行ったのだろう。 あるいは気まずさから逃げたのかだ。
「……こんなくだらない取引はもう勘弁だからな」
今の一幕の元凶……そもそもの黒幕であるリゼルを睨めつけるが本人は至って涼しい顔だ。
それでも自身の中にある罪悪感が消えるこ
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