第6部 贖罪の炎宝石
第5章 人外の力
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彼女は瀕死の重傷であったが……、村人の手厚い看護によって一命をとりとめた。
彼女はヴィットーリアと名乗った。
貴族だが新教徒で、ロマリアから弾圧を逃れて逃げてきたと語った。
トリステイン軍の一軍がやってきたのは、それから一カ月後の事であった。
彼らは問答無用で村を焼き払った。
父が、母が……、うまれて育った家が……、一瞬で炎に包まれた。
アニエスは、ヴィットーリアに促されるまま、ベッドの下に隠れた。
次の瞬間、ヴィットーリアが炎に包まれた。
アニエスが薄れゆく意識の中で見たのは、燃え尽きようとしながらも、炎に耐えるための水の魔法を自分にかけたヴィットーリアの姿であった。
一旦記憶はそこで途切れ、アニエスが次に見たものは……。
男の首筋である。
引き攣れた火傷のあとが目立つ醜い首筋である。
アニエスは、その男に背負われていたのであった。
手に持った杖で、その男がメイジであることが分かった。
つまり、その男が自分の村を炎の魔法で焼き尽くしたことを知った。
再びアニエスの記憶は薄れ……、気づくと自分は浜辺で毛布にくるまって寝ていた。
村は炎に焼かれ続けていた。
ゆらめく炎を、アニエスはじっと見つめ続けた。
生き残ったのは、自分だけであった。
あの日から、二十年という歳月が過ぎた。
未だに目をつむれば、炎が浮かぶ。
その日、家族と恩人を焼き尽くした炎が浮かぶ。
そしてその炎の向こうに、男の背が見える。
トリスタニアの宮殿、東の宮の一隅に設けられた王軍の資料室。
ここは王軍でも高位のものしか立ち入れない場所である。
アニエスの出世は、こういった場所に入るためだけにあったといっても過言ではない。
アニエス率いる銃士隊は、今回のアルビオン侵攻に参加しない。
数少ない本国に残る部隊の一つであった。
『平民風情に何ができる』と、軽んじられたのだ。
だが、アニエスにとっては好都合であった。
正直、アルビオンなんかどうでもいい。
そんなアニエスが二週間ほども王軍の資料室にこもり、やっとの思いで見つけ出したその資料の表紙には、こう記されていた。
『魔法研究所実験小隊』
そのわずか三十名ほどの小隊が、アニエスの村を滅ぼした部隊名であった。
ページをめくる。
隊員はすべてが貴族であった。
あいつが?と驚く名前もそこには載っていた。
唇をぎゅっと噛みながら、アニエスは一枚一枚慎重にページをめくっていく。
口惜しいことに、故人も多い。
アニエスの目が、大きく見開かれた。
次の瞬間、表情が悔しさにゆがむ。
なんと、小隊長のページが破かれて
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