第二十八夜「夢の切れ端」
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らへと乗せた。
「なんだ、蝉の抜け殻じゃないか。」
それは大きな蝉の抜け殻。どこか懐かしい…夏の名残…。
「私も昔…昆虫学者になりたかったのよ…。」
「お前、そんなこと一度も言ったことなかったじゃないか。」
余りに唐突だったため、亭主は呆れ顔をして言った。
あの夢…私と咲枝ちゃんが二人で虫取りをしていた記憶…。
咲枝ちゃんが大きな蝉の抜け殻を見付けて、私はそれがとても羨ましく仕方無かった…。
生き生きと夢を語っていた咲枝ちゃんはその夢を叶え…その夢のために亡くなった…。私はその夢を忘れ…こうして健康に不自由なく老後を過ごせている…。
一体…どちらが幸福なのだろう…?
「夢の切れ端ね…。」
「なんだそりゃ。さ、もう行こうか。お昼に間に合わなくなるからな。」
「そうね…って、あなた?それ、全部持ってくつもり?」
「勿論だとも!久々に作ったにしては上出来だろう?」
亭主は得意満面にそう答えた。それがまた可笑しくて私が笑うと、亭主は手のひら一杯の玩具を見せ付けて苦笑した。
だけれど…こんな人だったからこそ結婚したのだから、私も大概だと思う。
私は夢の切れ端をそっと地面へと置き、亭主と一緒に雑木林を後にしたのだった。
- さよなら…咲ちゃん。またね…。 -
...end
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