第二十八夜「夢の切れ端」
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たりとした穏やかな場所…何が不満なのかしら…。お客だって、ひっきりなしに来てるのに…。
私の不満が分かったのだろう…そんな私へとニッと笑いかけ、小糸ちゃんは言った。
「そんな顔しないでよ。」
「でも…。」
「あなた達が着たとき、荷物を運んだ仲居がいたでしょ?」
「ええ。」
「あの人、次男の嫁なのよ。有り難いことに、この旅館を是非継がせてほしいって…三年前から見習いで仲居に入ってるの。」
「そうなの!?でも、次男はそれで良いって?」
「次男も会社辞めて、今は主人の下で旅館経営を学んでるわよ。もう少ししたら私も主人も次男夫婦に任せて隠居するわ。」
「なら安心。」
そう言って二人…こっそりと小糸ちゃんの亭主が大切にしていた高級ワインを頂いたのだった。
夜も更けたので、私は小糸ちゃんに挨拶して部屋へ戻ると、既に亭主は戻っていた。と言っても、亭主も今し方戻ってきた様子だけど。
「お帰り。楽しかったかい?」
「ええ、お陰様で。あなたも随分陽気じゃないの。」
「まぁな。久しい友にも会えたし…今度から、一年に一度くらいは帰ってくるか?」
「そうね…健康なうちは、そうしたいものよねぇ。」
そう言うと、私達は一欠伸して床についた。時計はもう一時を回っているのだから…眠いわけだ…。
翌日、折角だからと…朝食の後、散歩がてら懐かしい道を辿ることにした。
暫く歩くと、子供の頃に遊んだ雑木林が見えてきた。
「懐かしいわ…ここは変わってないのねぇ…。」
私はそう言うと、懐かしさもあって雑木林へと足を踏み入れた。
「おいおい…子供じゃないんだから…。」
そう言いつつも、亭主も何だか嬉しそうについてきて…早速、地面に落ちているドングリや山栗を拾っている。どちらが子供なのやら…。
「あら…ヤマボウシ…。」
もう果実も終わっている季節なのに、この林の中では今も赤い実を撓わにつけていた。
「美味しいわねぇ。ほんと、懐かしの味だわ。」
時折、都会の街路樹にヤマボウシが使われているけど…さすがに取って食べる訳にはいかない。売ってる訳でもないから…子供時以来…。
ふと亭主を見れば…ドングリでやじろべえを作ってる…。
そうねぇ…あの頃は、おやつは山栗にアケビ、山葡萄にこのヤマボウシ…遊び道具は亭主の様に山から材料を見付けて作ったものよね…。
やじろべえだけでなく、ドングリ駒や竹トンボ、縄跳びも作ったし、女の子は花や木の実で腕輪や首輪、冠も作って遊んだもの…何もなかった土地だけど、自然だけは充分あった。
だから…子供の頃の思い出は、どこまでもカラフルで…。
「あっ…。」
少し声を上げすぎたかしら…亭主が「どうした?」と、心配そうに私の所へ来た。
そんな亭主に、私は櫟の幹に付いていたものを、そっと取って手のひ
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