第二十八夜「夢の切れ端」
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選手の様な彼。スラッと背は高く、その整った顔立ちに、一体どれだけの女子が憧れたことか…。それでいて実直な性格で、とても四回も結婚したなんて考えられなかった。
一度の再婚ならいざ知らず…四回って…。
「どうもねぇ、宝石商になってかなり稼いだらしいのよね。資産もかなりあるらしいし、そのせいか…女遊びが激しかったらしいのよ。」
「まぁ…あの誠実な人がねぇ…。お金はないと困るけど、あり過ぎても困るってことかしら。」
「そうよねぇ。ま、今の奥さんとはもう二十年になるし、年貢は納めたんじゃないかしら?」
小糸ちゃんの言いように、私は思わず笑ってしまった。
どれだけお喋りしてもし足りない程、私達は会えなかった時間を埋めるように喋り続けたが、ふと…咲枝ちゃんのことが頭を過った。
やっぱりあの夢が気になるのだ…。
「ねぇ…咲枝ちゃんて、今どうしてるのかしら。」
「あぁ…時ちゃんは知らなかったんだ。咲ちゃんね、随分前に亡くなったのよ?」
「…え?」
「もう十七年…いや十八年になるのかしら。何でも、海外の山の中で、崖から落ちたって聞いてるわ。」
「海外…?山の中って…何でそんなとこに…。」
私は首を傾げた。
結婚してからと言うもの、引っ越したこともあるけれど…忙しさのあまり友達とは疎遠になっていた。
だから…病気や老いによる死は何となく仕方無しとは思ってはいたけど、彼女…一番の友人と言える咲枝ちゃんがそんな亡くなり方をしていたと聞き、自分はなんと言う薄情な人間なのかと…そう思えて仕方無かった。
「咲ちゃんね、何だっけ…ええと…そう、昆虫学者になったのね。それで海外には良く行ってたんだって。」
「昆虫学者…。」
あぁ…そうか。あの夢、二人で虫取りしてた時の…。
そうだったわ…あの頃、私に話してくれていたわね…虫の先生になるんだって…。
そして…私も…。
「そうだったの…。もう一度、会いたかったわ…。」
「あなた達仲良かったもんねぇ。尤も、私達だってそう長かない事だし、向こうでこうして話せばいいじゃない。」
「全く…そう言うとこは変わらないわね。」
「どういう意味かしら?」
そうして二人で笑い合う。
確かに小糸ちゃんの言う通り。元気と言ってももう七十…。何だか寂しい気もするけど、もう充分な気もする…。
「そう言えば、小糸ちゃん。あなたこれからどうするの?女将業もそろそろ辛いんじゃない?」
「ほんとはもう引退したいんだけどね。長男も嫁も継ぎたくないって…。」
「え?それじゃ…この旅館は?」
私は顔を顰めて返す。まさか長男も嫁も代々続く旅館を見放すなんて…確かに辛い仕事だけど、ここは天然温泉もあれば釣りの出来る川も、山菜や茸が沢山採れる山もある。
ここは辺鄙な田舎町だけど、都会の喧騒を忘れられるゆっ
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