第二十八夜「夢の切れ端」
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幸せがあって良いものだろうか…。
私達は駅から新幹線を使い、後はバスに揺られ…夕になりかけた頃に懐かしい町へと入った。
「変わらんもんだなぁ。」
亭主はそう言うけど、私の記憶の中にはコンビニなんてものはなく、大きなデパートもない。逆に…よく通っていた銭湯はなくなり、一面のひまわり畑はビルの下になっていた。
変わってない所と変わった所…それらを見ながら時雨旅館へと向かう。
遠くで蜩が鳴き、空を見上げれば夕の紅が迫ってきていた。
「いらっしゃい!連絡してくれたら送迎もやってるのに!」
私達を出迎えてくれたのは、幼馴染みでこの旅館の女将をしている小糸ちゃんだ。
彼女は十八の時にこの旅館の長男と結婚し、二十六の時には女将を引き継いでいた。先代の女将…義母が倒れたためだが、それでもこうして元気に遣れてるのだから…。
「小糸ちゃん、元気そうで何よりだわ!」
「そう言う時江ちゃんも!ここまで歩いてくるなんて、本当に変わってないわねぇ。」
そうして女同士で盛り上がっていると、脇で亭主が「もう良いか?」と、何とも間の抜けた声で言ってきた。
「あら…もう私ったら!あっちゃんもごめんなさいねぇ。直ぐ案内しますね。」
小糸ちゃんがそう言うと、私達の荷物を仲居さんが持ってくれ、直ぐ様部屋へと案内してくれた。
因みに、小糸ちゃんが言った「あっちゃん」とは亭主のこと。名前が明彦だから…。
部屋は十二畳程の広さで、窓から見える庭には池と紅葉…ゆったりと出来る良い部屋だった。
「時ちゃんもあっちゃんも懐かしい人ばかりでしょ?後で裏に顔を出してやってね。」
「ああ。尚や洋一にも挨拶せんとな。」
「それじゃ、ごゆっくり。時ちゃん、また後でね。」
「ええ、楽しみにしてるわ。」
そう私が笑ながら返すと、小糸ちゃんも笑ながら「それでは、失礼します。」と言って部屋を出ていった。
「女子会でもやるつもりか?」
「そうよ!折角だもの、ゆっくり話したいじゃないの。あなたもそうしたいんじゃありません?」
私がそう返すと、亭主は腕を組んで言った。
「そうだなぁ…たまには酒でも飲んでくるか。」
「旅行ですもの、楽しまないと。」
私も亭主も苦笑した。旅行…なんてしたこともなかったから、二人してどう楽しめば良いやら分からなかったのだ。
それでさえ楽しいなんて…不思議なものねぇ。
夕食の後、亭主は颯爽と旅館裏へ向かう。昔馴染みに会うためだ。
私は私で、裏手にある女将の部屋を訪ねていた。
「それでさぁ、康広のこと覚えてる?」
「あぁ、あの足の速かった…覚えてるわ。あの人が走ると、女子は黄色い歓声を上げていたものねぇ。」
「そう!その康広ね、何と四回も結婚したのよ!」
「ええ!」
私は目を丸くした。
今で言うなら陸上
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