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ゆきおがあたいにチューしてくれない
ゆきお→涼風
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「……」

 胸のドキドキが大きくなる。でもイヤな感じじゃなくて、そのドキドキがとても心地よくて……収まって欲しいけど、ずっと鳴ってて欲しくて……草の香りに混じって、ゆきおの消毒薬の香りも、少しだけ感じる。ゆきおが近づいてくる……ゆきおの顔が、私の顔に、近づいてくる……

「……」
「……」

 すごく綺麗で、可愛くて、でも今、ちょっと男らしく、かっこよく見えるゆきおの眼差しが、少しずつ少しずつ、私の唇に近づいてきてる……。

 ほ、ほんとは、唇がカサカサじゃないかちゃんと確かめたいけど……でも今、舌で唇を湿らせたら……なんだかチューをせがんでるようで恥ずかしくて……でも、ゆきおは今きっと、私にチューするつもりで……あ、でもその時ギューってしてほしいかも。

 ゆきおが、両目をぎこちなくギュッて閉じた……どんどん近づいてくる……こ、これ以上、ゆきおの綺麗な顔、見ていたいけど……見ていられない……

 ゆきおの息遣いを肌で感じるほど近づいたその時、私は静かに目を閉じた。自分の唇に、その瞬間が訪れるのを、緊張半分、そしてワクワク半分で、待ち続ける。

「……」

 ……。

「……」

 ……。

「……」

 ……あれ。

「……」

 ……んん?

「……?」

 ……あれ、ゆきおの息、感じなくなった。心持ち、消毒薬の匂いもしなくなったような……

「……ゆきお?」

 あまりにその瞬間が唇に訪れないので、気になって目を開いてみた。そんな私の目の前に、さっきまですぐそばにあったはずの、ゆきおの顔は……なかった。

「あれれ?」
「うう……」

 上体を起こす。さっきまで私に覆いかぶさっていたゆきおは、ちょうど私のおなかの上にまたがる姿勢で、耳まで真っ赤な自分の顔を、両手で押さえていた。

「で、できないよっ……やっぱり、無理ぃ……」
「え……」

 さっきまであんなにときめいていた私の胸が、一気にスウッと静まった。あんなに色めきだっていた頭も途端に冷静になり、まるで遠征任務に出る前の、プラスマイナスゼロの感情が、私の頭を支配した。心の中の涼風鼓笛隊も、みんなが一斉にフラットな表情になった。でも一人だけは『なんでぇこんちきしょー!』って叫んでる。

「え、あ、あの……ゆきお……?」
「何が……何が簡単なんだよっ……比叡さんの……比叡さんの、うそつきっ……」

 ……あ、さてはゆきお……あの話、読んだな。

「ゆきお、そのー……」
「す、涼風に……チューされて……ぼ、ぼくも……その気になって、覚悟見せなきゃって……がんばったのに……っ!」
「えーと……」
「す、涼風はすっごく簡単に、フラッとぼくにチューしてきたのに……や、やっぱり、ぼくは艦娘じゃない
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