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小細工
第七章
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 その声を聴きながらだ。老人は僕に言ってきた。
「わかったな」
「はい、よくわかりました」
「村田はこれから落ちるだけじゃ」
 何とか立ち上がりながら三塁側に戻るが罵声を浴びている彼も見ていた。僕達は。
「ずっとな」
「ずっとですね」
「野球の成績だけじゃないからな」
「野球人そのものとしてですね」
「落ちる。後に続くわ」
「せめて他の球団に追い出されてから復活できればいいですね」
「抜け殻になっとるがな」
 フリーエージェントやらで巨人に入った選手は最後は巨人を追い出されている。これも面白いまでに例外はない。ローズなりラミレスなりだ。
「まあ粗大ゴミ扱いから復活じゃな」
「そこからやり直せ、ですね」
「あいつはこっから何年かしたらそうなる」
 老人は断言した。
「さて、それも観るか」
「ですね。しかしその都度巨人は」
「金が続く限り選手を強奪するわ」
 そして心を売る選手が出て来る、だがだった。
「しかしじゃ。もうあの黄金時代は来んわ」
「そうしたことをしてもですね」
「巨人は野球を知らん。正しい野球を知らん」
 それは野球を愛する者のすることではない、野球を冒涜する者のすることだ。
 選手の育成やチーム、そして野球そのものへの愛情がない。それはまさに。
「小細工は幾らしても確かな強さにはならんわ」
「だから巨人は黄金時代を再び迎えることはないのですね」
「もうそんなやり方は通用せん」
 別所の時の様なことをしてもだ。もうそれは通用しなくなっていた。
 巨人軍、大鵬、卵焼きという言葉があった。僕は相撲は知らない。卵焼きは好きだ。
 だが巨人は嫌いだ、巨人を無批判に応援するということは野球を知らないことだと思っている。それは何故か、巨人はこれまで野球を冒涜し続けてきたからだ。
 戦後日本はマスコミにより衆愚政治に陥ったとも言われている。それは政治のことだけではないのだ。巨人を無批判に応援することもまた衆愚になるのではないだろうか。
 それが通用したのは戦後マスコミや知識人が力を持っていた頃だけだ。学生運動で暴れていた連中も巨人ファンが多かったという。権力に反対すると称して権力志向だったのだ。
 しかし衆愚ではない者が増えればどうなるか、巨人の化けの皮も剥がれる。その結果だった。
「ドラフト、改悪されててもそれがある」
「はい、巨人の一極集中は既に成し得なくなっています」
 いい制度だ。その戦略によりチーム育成もできる。
「そして選手の育成もあって」
「ドラフトと育成こそが正道じゃ。強奪は小細工、邪道じゃ」
「その邪道ばかりを使うが故にですね」
「巨人は黄金時代を取り戻すことはない、絶対にな」

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