第20話『混迷の時代の願い星〜勇者の新たなる旅立ち』【Bパート 】
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同は、腰に据えている剣の柄を緩むつもりはないようだ。
すちゃりと、誰かが刃の弦の音を鳴らす。
何故なら、一つの可能性さえも捨てきれないからだ。このザイアンが『弱者』と偽って『勇者』の凱を殺すのではないかと。
実際のところ、ザイアンの狙いは誰にもわからない。だが、凱自身とその竜具『アリファール』も欠かすことのできない、現在の『銀の流星軍』には必要な力だ。油断して失われる愚だけは、犯すわけにはいかない。
返事のないザイアンに対し、凱はもう一度言葉を投げかけた。
「……まずは、君の『真意』を確認したい」
しかし、抜刀するのも躊躇われている。それに反響して沈黙も訪れる。
「オレは……」
ためらいがちな声が、幕舎に伝わる。凱と対面して初めて発した彼の言葉だ。
「父上、フェリックス=アーロン=テナルディエの命令によって、ここ対『銀の流星軍』斥候の任を受けている」
まるで自殺行為に等しい発言だ。もし、これがウソだとしても、敵側の陣内でこのような事を申していいはずがない。
緊張――とは違う種の大気が張り詰める。やはり、彼はテナルディエ家の者。誰もが敵対の意思を抱こうとした時――
「待ってくれ!『今』の彼は『敵』じゃない!」
凱の言葉を聞き、皆はハッとする。そんな凱の態度に、ザイアンはまぶたが苦しくなるような感覚を抱く。
「――だが、オレ個人の意思は、あなた達『流星』との敵対を望んでいない」
顔を見上げ、凱の瞳を捕えて、ザイアンは自分の意志を述べる。
そしてザイアンは見た。かつて、自分が陥れようとした『侍女』の姿を。
震えるように、凱の後ろへ控えるティッタは、とっさにザイアンと目線が合わさった。
どちらかが、胸がいっぱいになったのだろう?
――自分が侍女に仕出かしたことに対する後悔か?
――若しくは、侍女の自分にされたことへの恐怖なのか?
ザイアン様を……放してください。
あの時、斬首を覚悟したザイアンにとって、侍女の言葉はどれほどの救済を秘めていたのだろう?
弱者、民、雨後の茸と自分がなじった連中、その連中に罵声を浴びせられ、死を覚悟した自分。アルサスの怒り、ヴォルン伯爵の怒りを受けて、死出に旅だとうとした。
しかし、ザイアンの処断を託された侍女は、彼女だけは違った。
特別ザイアンの生を願ったわけではない。ティグルと同じで、アルサスも襲われて、悔しくて悔しくてたまらなかったはずだ。
ティッタは、あの時抱いた『恐怖』という気持ちを、『勇気』の心で別の所へ向けようとしていたのだ。
当然、ザイアンを釈放してしまえば、避難の嵐をティッタが受けるはずだ。それさえも勇気で受け止めて――
(……どうもかつてのザイアン卿とは印象が違うのう)
一人、マスハス=ローダントが心の
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