第20話『混迷の時代の願い星〜勇者の新たなる旅立ち』【Bパート 】
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ぶやきは、どこか枯れているように聞こえた。
振り向こうとせず、これから戦いへ赴く勇者を労る雰囲気さえも見せない。
(……あなたは本当に……善人すぎます……)
彼女にとって、凱からかけられる言葉の一つ一つが、拷問のように心へのしかかる。そのような錯覚が拭えない。
――私はあなたを騙しました。
――全ては、オステローデを豊かにするために。
――ジスタートの国益を第一。その中にオステローデがある。ただそれだけに。
――ガイとの幻想の品……多目的通信玉鋼を手放さない……浅ましい女。
――赤子のような産声を上げて泣いたガイを抱きしめて……心の中で描いた空想ではなく、頭の中で記した計算の上で。
記憶を揺り起こすたびに唇がぎゅっと閉まる。
ヴァレンティナの律儀が、涙をこぼすことを許さなかった。泣いて見せたところで、結局楽になるのは自分自身だけだ。これからブリューヌの動乱へ挑む凱の負担が楽になるわけではない。ならば、自分は異名に相応しい|虚影の幻姫≪ツェルヴィーデ≫の役回りを演じるべきだと思い、気持ちを落ち着かせた。
「現実を壊すことよりも、幻想を叶えることのほうが難しい――そういうことです」
喉を詰まらせた言葉がこれか。
もう少し、まともな言葉もあったのだろうか?
本当にかけたかった言葉は、こんなものではなかったのに――
「私もあなたと同じです」――ただそれだけを、まっすぐ伝えたかった。なのに――
数秒置いて、ティナは歩みを再開する。対して、「ティナ」と凱はもう一度呼び止めた。
「これだけは言わせてほしい……『幻想』を……ありがとう」
突き放したはずの一言に対する返答――ありがとう……が?
――これ以上、私の心を苦しめないでほしい。
――どうせなら、目の敵の言葉を私にかけてほしかった。
――恨めしく侮辱してほしかった。
だから、彼女は心の中で凱に恨み言を一方的にぶつけ、虚空回廊へ帰していった。
――本当に……卑怯……です……シシオウ……ガイ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その場に残った『獅子』と『隼』――獅子王凱とフィグネリアは今後の行動を取り決めていた。
「王都を通過してライトメリッツ方面へ向かって銀の流星軍駐屯地へ合流……随分と手間をかけるものだな。ガイ」
銀閃アリファール。凱の腰に据えられた剣の秘めたる力を知っていての、フィグネリア――フィーネの発言だ。だが、過去を振り返り、やがてそれは失言だと悟る。
以前、エレンの消息について凱に問い詰めようとしたとき、ルヴーシュの虎街道で彼を追い回していた時があった。無理に凱の背中を追いかけ
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