第五話 女王蝶
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ンのように見える紫雨の振り下ろしを、どこか他人事のようにただ見ていた薔薇咲。
竹刀の刃部が徐々に迫る。逃げられない。頭に触れた。もう逃げられない。めり込む。諦めた。そして、己の死が確定し――――。
「…………え?」
生きて、いた。目の前には寸でのところで止められた竹刀。
「な、ん……で、アタク、死ん……」
「東雲一刀流単式一の型――『霞雲』」
直撃の瞬間まで明確な“殺意”を維持し、命を奪わん寸前に“止め”る。一手狂えばそのまま殺めてしまうという活人剣にして殺人刀。東雲の剣を修めようとする者が最初に学ぶ型である。
廊下に僅かな物音。その音の正体を見やり、紫雨は留めていた竹刀をまるで鞘のようにした左手へ納め、ただの一言。
「鞭を落としたな。約束だ。話を聞いてもらおう」
「ぅ――――」
ようやく竹刀が視界から消え去り、生を実感した薔薇咲は全身の力が抜け、そして――意識を手放す。
「中等部の者相手に、なんと大人げない事をしたのだ私は……」
やりようはいくらでもあったはずなのに。それでも招くはこの体たらく。月夜ならばともかく。死合いの心得も無いような少女を相手に、これは些かやりすぎた。
目を覚ましたら謝ろうと、まずはそう思った紫雨。
「ののっ!? ウーチョカちゃん!?」
これまた中等部の生徒であろうか。明るい髪色の少女が倒れている薔薇咲と自分を見比べていた。
不可抗力とはいえ、この絵面を見ればいくら抜けている者でもこう見えてしまうであろう。
「ちょ、ちょっと! これは一体どういうことなのです!?」
「……見ての通りだ。私がやった」
もっと言い方があった。
ここでしっかりと言葉を選んだ上で、慎重に状況を説明していればまだ穏便に済んだはずである。
経緯を知っている者でない者が聞く紫雨の言い方ならばまるで、“一方的に薔薇咲を痛めつけた”と受け取られても、何ら文句を言う筋合いはなかった。
「どうしてウーチョカちゃんにこんな事をしたのですか!? 見ない顔のようですけど、まさか貴方が輪お姉さまに逆らった東雲紫雨さん!?」
「……どのような説明をすれば良いのか分からんな」
今、目の前の彼女が酷い思い違いをしていることは分かる。しかして、如何な説明でこの場を収められるか、およそ人付き合いは不得手な紫雨からすれば、この状況は詰みも詰み。
だがはっきりと分かることがある。
「輪お姉さまへの無礼だけでなくウーチョカちゃんにまで……! ここで見過ごすわけにはいかないのです! この私、百舌鳥野ののが手ずから成敗しますのですッ!!」
どうやら火に燃料が注がれすぎて、大火となってしまったようだ。
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