第五話 女王蝶
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?」
手元でも狂ったか。そう考え、一歩踏み出した紫雨へ再度鞭撃。今度は身体を半身に逸らすことで紫雨の眼前を横切る。
今度こそは当てる。明確な着弾を目標に、薔薇咲は鞭を振るう。それも、緩急をつけた連撃。
これならば、と勝利を確信する薔薇咲。
そんな彼女の自信を覆すのは、刀を握らぬ幽鬼。
「あ、当たらない……ただの、一撃も……!?」
「東雲一刀流は風を読む」
人の身を考慮しない訓練から培われた超感覚は微細な空気の流れから討つべき相手を索敵すること可能。それを応用する事で攻めの予備動作を感知し、音速の鞭の軌道を“読み”、避けることさえ不可能ではない。
明確な敵意が伴えば、その精度は更に高まる。
「私はまず、話し合いをしたい。そこで決裂するというのなら私はようやく剣を抜くつもりだ」
「ならまずは、アタクシの手から鞭を離させてごらんなさいですわぁ!!!」
「了解した」
ついに竹刀袋から抜き、構えた紫雨。
両手で持ち、上段に構える。しかし切っ先は異様とも言える高さ。“二の太刀要らず”と謳われた彼の『示現流』を連想させる大上段である。
自然と鞭を握る手に力が入る薔薇咲。
あの高さから生み出される速度はいくら竹刀と言えど、当たり所が悪ければ命に関わるというのは良く理解している。
竹刀に目がいっていた薔薇咲へ、紫雨は語り掛ける。
「薔薇咲殿。心して、全霊で打って来い。私の剣はそれを畳み返す」
ゾッとした。背筋が凍りつくかのような気迫。戦闘中、初めて薔薇咲は“恐怖”した。ピタリと止められた竹刀。打たれる痛みを知ってもなお、微塵も臆さない紫雨から発せられる強き眼光。
ようやく薔薇咲は“識る”。
この目の前に立つは、自分達が尊敬し、目指す五剣達と同じ領域にいるのだと。
だが、逃げられない。怖い、と思った。東雲紫雨から滲み出ているのが“殺気”だと、誰からも教えられずとも本能レベルで理解してしまった。
「仕りませい。さもなくば、東雲の剣から仕るぞ」
「メアリお姉さま、アタクシに……力をッ!」
その瞬間を傍から見ていた者がするならば、一瞬紫雨が二人いたかのように見えていただろう。
その残像の正体は完全な“静”から一息で移り変わる“動”により生み出された目の錯覚。
驚くべきはその初動である。必殺の鞭を繰り出すため、腕を上げた時には既に紫雨は薔薇咲を己が間合いに捉えていた。
薔薇咲の視界に大きく映る紫雨。先ほどまで見ていた紫雨よりも遥かに大きく見えた。距離感と、そして十二分に蓄えられた殺気で練り上げた虚像。その姿、閻魔とすら見紛う形相。
閻魔が槌を振り下ろす。
――死んだ、と思った。
スローモーショ
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