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小細工
第一章
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稀代の悪行だ。
「あれは酷かったわ」
「そうですよね。それで一旦阪神に入って」
「そのうえでな」
 巨人に入ったのだ。これはイカサマだった。
 その時に小林繁が阪神に入った。それでだったのだ。
「しかしあの時はな」
「結果巨人キラーを作ってしまいましたね」
「江川は一年目は散々じゃった」
 圧倒的なブーイングを受けたのだ。江川は最初はそのブーイングの中ではじまったのだ。
「まあ江川自体も問題はあったがのう」
「問題は巨人の体質ですね」
「そうじゃ。別所からの体質を見事に出した」
「それでああして江川を獲得しても」
「一年目も二年目も勝てんかったわ」
 その時強かったのは広島東洋カープだった。ドラフトと選手育成を有効に活用した。
「野球は一人の選手だけでは勝てん時代になっとった」
「そうですね」
「そうじゃ。別所だけでも勝てんかったじゃろうがな」
「野球はその時はかって以上にでしたね」
「エースが毎日投げて試合をするものではなくなっておったのじゃ」
「ええ、本当に」
 僕は老人の言葉に答えた。実は僕達は今甲子園の一塁側にいる。そこから阪神とその巨人の試合を観ていた。そうしながらの話だった。
「もうローテーションが出来てきていて」
「大体そこまで頑丈な人間もおらんようになっていた」
「ですね。江川もまた」
「江川は別所とは違ったわ」
 その南海から強奪した大エースではなかった。このことが重要だった。
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