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人狼と雷狼竜
始まりの遭遇
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えて静かに座るその人物は、編み笠を軽く叩き続ける感触に僅かに顔を上げた。
「……振ってきたか」
 振り注ぐ雨粒は大きく、それに比例して雨音は非常に大きい。まるでバケツをひっくり返したような大雨だ。
 雨雫が陣笠を伝い大きな水滴となって外套へと落ちて行く。これでは半身はほぼずぶ濡れになること間違いなかった。
「ニャ〜!」
 アイルーが心底嫌そうな声を上げる。体毛が水浸しになる事が嫌で仕方が無いようだった。
 その時、天上にて雷鳴が走り、大地に響くような轟音が鳴り響き、空を見ていた人物は反射的に、音源を見た。
 天高く、幾つもの巴を描いた無数の雲が文字通り大渦を形作っていた。それはまさに嵐そのものが形になったようだ。そして、その渦中には超然的な何かがいた。
「……あれは……まさか、古龍(いにしえりゅう)か?」
 渦の中心。渦の中に僅かに見え隠れする、白く細長い何か=c…それはまさしく龍だった。
 あまりにも距離がありすぎて詳細は掴めないが、嵐の中を悠然と泳ぐように飛び続けるその姿は、他に類を見ない。まさに生態系の外にある種のあり方といえる。
 その人物はその光景に半ば呆然と見入っていた。
 なんと幻想的な事か。なんと神々しく、美しい事か! だが……
 そんな感慨に囚われていた人物の五感が、新たな何かの存在を感じ取ったのと、道を駆け抜けるガーグァが金切り声を上げて無茶な方向転換を行ったのは同時だった。
 ガーグァは良くても荷車はそうは行かない。無茶な動きに付いていけずにバランスを崩し、積荷の半分近くを投げ出す事になった。しかし、その時には既にその人物は動いていた。投げ出される直前に足場を蹴って空中へと躍り出ていたのだ。
 問題は着地した後だった。跳んだまでは良かった……何もせずに投げ出されて地面に激突、怪我人一人出来上がり……な事にはならずに済んだからだ。
 だが、着地した場所が非常に拙かった。その足場は岩のような硬質さが靴越しにも伝わりながらも弾力を持ち、更には熱を含んでいるのが立ち上がる水蒸気で理解できる。
 加えて、その人物の予想よりも着地のタイミングが早かった事に違和感を覚えると共に、視線が普段の自分よりもずっと高い所にあることに更なる違和感を覚えた事で、思考が一瞬硬直したのが拙かった。
 そして周囲を見渡すまでも無く理解する。自分は今、人に慣れたガーグァが一目見て恐慌に陥った程のモノの上に居るのだと。見れば、巨獣が空を……天の渦を睨んでいるのが後姿ながら嫌でも目に付く。
 そして、首を僅かに曲げて後ろを見たソレと、目が合ってしまった。
 振り落とされる前には跳んでいた。着地と同時に手にしたものの柄に手をかける。
 ソレは刀と呼ばれる武器だ。左手で鞘を握り、いつでも鯉口を切れるように曲げた親指を鍔に添える。

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