始まりの遭遇
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白い霧に覆われた山道。見渡す限りが白く濁って見える世界。
道なりに生える木々すらも霞み、遠くにあるかのごとく錯覚してしまうだろう。
木々の反対側は断崖絶壁。気を抜いてしまえば谷底へと真っ逆さまだ。ただ、微かに見える高い山は霧のお陰で何処か幻想的な雰囲気を醸し出している。
そんな山道を一人、歩き続ける者がいた。
黒塗りの藁で編んだ編み笠を被り、黒の外套を纏った人物だ。
編み笠の中からは肩に届く位の金糸のような髪が伸び、編み笠から見え隠れするその目は何処か、猛禽類の類を思わせる鋭い眼光を宿している。
その眼は常に周囲を見渡している。まるで領地を巡回する獣のように。
不意に重量物が、しかし軽快に転がり回るようなけたたましい音が、その人物の後方より響き渡ってきた。
その人物は徐に背中へと手を伸ばし、外套の中から伸びた棒状の物を握りながら流れるような動作で振り返る。
霧の彼方から音と共に現れたのは、ガーグァと呼ばれる飛べない鳥竜種に引かれた荷車だった。
「……」
その人物は手にかけていた棒状の物から手を離すと、荷車に道を譲るように木々の方へと身体をそらした。
すると荷車は速度を落としていき、停車した。手綱を付けられたガーグァがその人物の方を向いて鳴き、荷車から小さな影が姿を見せた。
「あんたさん。ユクモ村を目指してるのかニャ?」
アイルーと呼ばれる獣人種だ。人語を理解し、世界の広範囲で生息している。中には人間と主従の関係を結ぶ者や、人間顔負けの商売をするもの者もいる。
「ああ。あんたもか?」
その声を掛けられた人物は、静かに答えた。
「そうかニャ! なら後に乗っていくと良いニャ! 生憎と荷物が多くて乗り心地は悪いかもニャけど、もうすぐ大雨が降るニャ! 雨の中ユクモまで行くのは大変だニャ!」
「助かる。雨の匂いはこの地でも間違いではなかったか……」
その人物は灰色の空を眺めて呟くように小さな声で言った。
「この地? もしかして、海を渡って来たかニャ?」
「ああ。お言葉に甘えて乗車させて頂く。話は道中にでも聞いてくれ」
そう言って軽く跳ぶような動作で、その人物は荷車へと乗り込んだ。微かな音と共に揺れる荷車。手綱を握るアイルーは、その動作に眼を見開いた。
「ニャ!? 速い!」
「出してくれ。匂いが強くなってきた」
「おっと! 了解だニャア!」
その指摘に我に返ったアイルーは手綱を握りなおして、ガーグァに発進を命じた。
ガーグァはその命令に答えて走り出す。僅かとはいえ土煙を巻き上げて走るそれは、この道に慣れきった者の動きだった。
ただひとつ問題があるとすれば、荷車の立てる騒音のせいでお互いの声が全く聞こえない事だった。
荷車が走り出して数分。背負っていた細長い棒状の物を抱
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