紙舞
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出した生徒の誰かが事務局に報告するんじゃないかとビクビクしていたが、どういう訳だか誰も現れない。今日はこの後、この教室を使う講義もないはずだが…紙吹雪は明日まで残るんではなかろうか。
「………あ」
いつの間にか起き上がった静流さんが、起き抜けの眠そうな目で辺りを見渡した。起き上がった際に、黒髪から、細い肩から、さらさらと紙吹雪が滑り落ちた。
「……これ、どうしたのかな」
「……突風が、舞い込んでね」
迷ったが、結局真相は告げないことにした。本当の事を知れば、きっと罪悪感で押しつぶされてしまう。俺と奉以外は真相など知らないし、知る必要もないのだ。
「その拍子に本か何かがぶつかったみたいで、気を失ってたんだ。…覚えてない?」
「……ん、よくわからない」
彼女はまだ眠そうに、俺の肩に身を寄せて来た。…いつもより近い気がした。紙吹雪に覆われた教室の真ん中で、俺たちは何故か肩を寄せ合って座っていた。
「ありがとう」
静流さんが俺を見上げた。30センチもない距離で、眼鏡越しとはいえ見つめられるのは初めてだ。
「……え」
「居てくれて」
そう云って、微笑んだ。彼女はもしかして。
「それに、庇ってくれて」
……やっぱり。
「知ってたのか。その…紙のこと」
「分からないけど。…もしかしたら私かなって。あ、ノートの事も気になってたけど私その…」
肘の辺りに、静流さんの柔らかい指が絡みついた。突然の事に固まる俺を、静流さんは不安そうに見上げていた。
―――分からない。彼女は俺に、何を伝えようとしているんだ。
「……ずっと、考えごとしてました。ノートの事だけじゃなくて」
「な、何を」
声の上ずりを感づかれなければいいが…俺は冷静を装って静流さんを見下ろした。
「青島君のこと」
「俺!?俺なんかした!?紙が舞うほど悪さした!?」
悪さ、とかじゃなくて…と消え入りそうな声で静流さんが呟いた。
「今泉さんと、お話ししてたこと」
「俺と今泉の話?…なんか、馬鹿な話しかしてなかった気がするけど」
静流さんは耳まで赤くして、視線を落とした。
「ふざけんな、お断りだ……って、云ったこと」
「へっ!?」
静流さんを狙ってもいいか、と冗談交じりに今泉が訊いてきた時に、俺が『お断りだ』と半ば本気で返した話か!?
「え、あの…ごめん、もしかしてその…今泉に…興味が…?俺、余計な事した?」
云いながら胃液とか吐きそうになる。そ、それだけは、その展開だけは勘弁してくれ…!!
「私、期待してもいいのかな…って」
俺の肘に添えた掌に、もう一つの掌を祈るように重ねて静流さんが呟いた。
「え…あ…」
俺はどんな間抜けな顔をしていたことだろう。静流さんの潤んだ瞳を、どんな阿呆面で見つめ返していたことだろう。そして。
ふと脳裏を
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