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霊群の杜
紙舞
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「静流さん!!!」
軽くぴしゃりと頬を叩くと、静流さんは一瞬だけ俺と視線を交わして、そっと目を閉じて崩れ落ちた。
白い紙吹雪が、ゆっくりと俺達の上に舞い落ちる。それらは静かに、静かに床や机を覆い尽くし…やがて教室は、雪が降ったように白に覆われた。
ぐったりと白い床に横たわる静流さんを抱き起こし、教室のベンチ席に寝かせてから俺は傍らでにやついている奉を見上げた。
「―――紙舞い…ってな、聞いたことあるか」
「神無月…十月になると、風もないのに紙が一枚ずつ舞い上がる現象を妖怪に例えて…」
うろ覚えの情報をそのまま口にすると、奉は紙吹雪に覆われた教室内を見渡して、言葉を続けた。
「紙舞の元ネタとされる『稲生物怪録』では7月に起こっているんだよねぇ。必ずしも、10月とは限らない。それよりよ、この現象に非常によく似た現象があるだろ?」
―――こりゃ、要はポルターガイストだねぇ。そう云って奉は頭を2,3度、ぶるぶると振った。黒い髪から紙吹雪が数片、舞い落ちた。
「霊の仕業とでもいうのか」
「そういう場合がないとは云わないがねぇ。…激しいストレスによる、潜在能力のヒステリックな発露、という見方もある」
『キャリー』やら『ローズマリーの赤ちゃん』やら、そんなホラー小説で題材にされがちな超能力の暴走というわけか。ベンチ席に横たわる静流さんの頬に落ちる、長い睫毛の影をぼんやり眺めながら、俺は……。
「―――10月ってな、嘗ては米の収穫やら酒の醸しやら冬支度やらで特に忙しい時期だった。加えて神無月の由来でもあるが、土地の神が伊勢に集まり、留守にする『神の無い月』でもあった。…本来、守るべき神が無いこの月は、本来抑え込まれていた『魔』が沸きだすと、信じる者もいた」
「魔が沸き出す?」
「普段、土地の神が要石で抑えている鯰が暴れ出し、地震が起こりやすい…なんて云う者もいたねぇ…」
奉は何かを思い出すように遠くを睨んだ。奉自身も、迷信に惑わされる人々を目の当たりにしてきたのだろうか。
「そういった伝承は無学な連中を抑圧し、加えて多忙な状況は確実にストレスになっただろうねぇ。中にはこういう」
静流さんを指して、奉は言葉を続けた。
「カンの強い奴が居て、力を暴走させたわけだ。…この現象自体は年中あったんだろうが、神無月に起こった不吉な現象は、多少誇張されて伝わりがちだったんだろうねぇ」
「じゃあ、静流さんは…」
「云っただろう、こいつはお前が思うほど弱者じゃない。自慢のノートを馬鹿にされて」


―――怒ってたんだよ。紙が舞う程にねぇ。


くっくっく…と低く笑って、奉は羽織の袖に入り込んだ紙吹雪を振り払い、踵を返した。
「怖い女だよ、静流は」




奉が立ち去った後も俺はここを離れがたく、静流さんが目覚めるのを待った。逃げ
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