第二十五夜「夕暮れの街角で」
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垣間見た…。
- あ…。 -
彼は…それを否定した。
ここに彼女は居ないのだ。彼は彼女と別れて…ここに居る。彼女は今、別の男と結婚して幸せに暮らしているはずなのだ…。
なのに…。
- またかよっ…! -
燃えるような赤に染まる街並み…その街角のあちらこちらに彼女の姿が見えるようで…。
有り得ない…ここに彼女との思い出は無いのに、なぜこんなにも彼女の影がちらつくのか…。
それが嫌になり…あの町を出たと言うのに…。
彼は自分が女々しく思え、直ぐ様踵を返した。
- これじゃ…部屋を出た意味ねぇじゃん…。 -
そうして彼は…今来た道を戻ることにした。
だが…背後から感じる夕影に、心が搦め捕られているような…彼はそんな錯覚に襲われた…。
彼は思う…別れたくて別れたんじゃないんだ…と。
しかし、そう思うことさえ自分の女々しさを強調するようで、余りの虚しさに歩く速度を上げた。
過去から伸びる長い影…それがどこまでも長く…今の自分へと届いてしまいそうで、いつの間にか…彼は走り出していた。
「あっ…!」
彼は角から出てきた人にぶつかってしまい、見れば、相手…女性は尻餅をついていた。
「あたた…。」
その女性は直ぐ様彼を睨み、文句を言ってやろうとした刹那…。
「あなた…さっきの!」
「えっ…?ああっ!!」
彼がぶつかった女性は…彼がぶつかられた女性であった。
何の因果か…その女性が彼にぶつからなければ、彼は別れた彼女とのことを思い出すこともなく…在りし日の影から逃げるように走り出すこともなかった。
彼は何とも言えず…どことなく淋しげな表情を浮かべていた。
女性はそれを知ってか知らずか、手を出して彼へと言った。
「起こしてくれても良くありませんか?」
「あぁ…ゴメン。」
彼はそう言って女性の手を取り、スッと引き上げた。女性は立ち上がると服を整えながら言った。
「これ…さっきの仕返しですか?」
「な…!そんな…いや…」
女性の言葉に彼は慌てふためいたが、女性はそんな彼の姿に吹き出してしまった。
「ごめんなさい。冗談ですから。」
そう笑いながら言う女性に、彼は胸を撫で下ろした。
「あ…でも、急いでたんじゃないんですか?」
女性が心配そうに言う。走ってたのだから、それはまぁ…急いでいたと思われるだろう。
しかし…昔の彼女の思い出から逃げていた…などと言えようもなく、彼は「いや…別にそう言う訳じゃ…。」とお茶を濁した。
彼がそう返すと、女性は少し考え…彼に言った。
「でしたら…お茶でもどうですか?勿論、あなたのオゴリで!」
女性は笑ってそう言ったが…彼はどう返したものか分からなかった。
だが…このまま帰っても一人なことは変わらない…。
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