第五章
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「このことは覚えておこう」
「それでなのですが」
田豊はここで主に強い声で言った。
「華北を完全に手中に収めましたし」
「これからだな」
「はい、どうされますか」
「西か南かですが」
沮授も言ってきた。
「どちらに進むかですが」
「南だ」
袁紹は強い声で答えた。
「やはりな」
「では黄河を渡り」
「そして曹操ともですか」
「呂布を倒して徐州も手中に収めたと聞く」
このことはもう袁紹の耳に入っている、曹操にとっては因縁の相手だったが遂に滅ぼしたのだ。
「あの者を倒せばな」
「はい、我等が天下を取れます」
「曹操を倒せば」
「だからそうする、しかしだ」
袁紹は不意に難しい顔になりこうも言った。
「厄介なことがあるな」
「兵糧ですか」
「それのことですか」
「公孫賛との戦で使い過ぎた」
長い間大軍で彼の城を囲んでいてだ、兵を動かせばそれだけ多くの兵糧を使うことは自明の理だ。
「だから今はな」
「動けぬ」
「そうだというのですか」
「動きたくともだ」
例え袁紹がそう思っていてもというのだ。
「動けぬ、買おうにも天下に回っておらぬ」
「乱世ですから」
「むしろ餓え死にする者すら出る始末」
「それで兵糧も出回っておらず」
「買うことも出来ぬから」
「収穫の時まではだ」
まずはというのだ。
「動けぬ、だからな」
「今は兵を動かせぬ」
「どうした時でもですか」
「そうじゃ、我等には兵糧がないのじゃ」
だからと言うのだった。
「それまで待つぞ」
「殿、しかし」
「時が来れば」
田豊と沮授は兵糧のことを気にする二人に強く言った。
「兵糧は攻めたその場でも手に入ります」
「手に入れようと思えば敵からも奪えます」
「ですから場合によってはです」
「動くべきですが」
「いや、確実でいくべきだ」
慎重に慎重を期してというのだ。
「今は動かない」
「次の収穫の時まで」
「何があっても」
「そうする」
こう二人に言うのだった、そして袁紹は動かないことを決めたがその次の収穫の時までに劉備が曹操から離脱しその劉備を組み込んで彼が治める徐州を勢力下に収める好機が来たのだが。
袁紹は動かずだ、田豊と沮授は苦い顔になった。
「折角の機だというのに」
「それを逃すとは」
「惜しい」
「今こそだったというのに」
誤った決断ではないか、二人はこう思うしかなかった。だが袁紹のこの決断も覆ることはなかった。次の収穫の時まで動かないことは。
誤った選択 完
2017・5・17
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