第五章
[8]前話
家臣達は呼んでも来ない者が多かった、それどころか。
「何と、その者もか」
「はい、織田家に降られました」
「そして弓をこちらに向けております」
「そうして来られました」
「あの方もです」
「あ奴は代々当家に仕えてきたというのに」
そうした者だったとだ、義景は蒼白になって言った。
「他の者達も」
「殿、どうされますか」
「最早この城も守りきれるかどうか」
「わかりませぬ」
「織田家の軍勢はこちらに向かっておりまする」
「大軍が恐るべき速さで」
「仕方がないわ」
彼は一門の朝倉義鏡の言葉に従い賢松寺に落ち延びた、そこで最後の戦をしようと考えていたが。
その彼にだ、僅かに残った家臣達が言ってきた。
「あの方もです」
「織田家に降られました」
「そのうえでこちらに兵を向けておられます」
「そうしてきました」
「あの者までもが」
義景はその報を聞き肩を落とした、一門である彼までもとわかり。
そしてだ、その場にへたり込み言った。
「そうか、最早この寺もか」
「無念ですが」
「そうなりました」
「思えば出陣してこなかった」
義鏡、彼は信長と戦う時に出陣してこなかった。他の家臣達と共にあれこれ理由をつけてそのうえでだ。
「怪しかったのう」
「今思えば」
「そうですな」
「全くじゃ、ではな」
義景もここで覚悟を決めた、そしてだった。
残っている家臣達にだ、力ない声で言った。
「介錯を頼む」
「わかり申した」
「それでは」
「最後の最後位は恥をかかぬわ」
この言葉を最後にしてだ、義景は腹を切った。こうして朝倉家は滅んだ。
一乗谷城は信長の軍勢により徹底的に焼かれた、信長は焼け落ちたその城を見つつ義景の首が届いたことを聞いて言った。
「で、あるか」
「はい」
「わかった、では次は浅井じゃ」
こう言ってだ、浅井家攻めに向かった。後始末のことを越前に残す家臣達に伝えたうえで。
朝倉義景の評判は甚だ悪い、都の文化や側室に溺れ家を滅ぼしたとだ。そして最後は殆どの家臣に見限られ腹を切ることになった。彼はたった一つの城にも留まることが出来なくなりそうなってしまった。家臣達の不忠を批判する声もあるが果たしてそれは正しいだろうか。義景の姿を見ているとそうでもないのではないかと思える次第だ。人は自分が仕えるに相応しい相手に仕えるのだから。
孤城落城 完
2017・2・20
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