第三章
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「もうな」
「その問が来たからな」
「今から先生のところ行って来い」
「そうして来い」
「ガツンと行け、ガツンと」
「当たって砕けろだ」
大戦中のアメリカ軍の四四二部隊の心情も出た、日系人部隊として有名だが彼等を迫害した連中は戦場におらず安全な場所で差別と迫害に励んでいたと言うのは意地の悪い表現だろうか。
「行け、いいな」
「やってやれ」
「そうしてやれ」
こう話してだ、そしてだった。
徹二の背中を押した、すると徹二もだ。
ついに覚悟を決めてだ、クラスメイト達に言った。
「よし、もうな」
「腹括ったな」
「じゃあ行け」
「先生のところ行って来い」
「そうして来い」
「そうしてくるな」
徹二は頷いた、そしてだった。
卒業式後の悲喜こもごもの中にある校内で栗色のロングヘアに楚々としたファッションの大人の女性を探した。すると。
すぐにだ、彼はその女性を見付けて声をかけた。
「あの、先生」
「何?」
すぐにだ、少し垂れ目で泣き黒子のある整った顔の二十五歳程の女性が彼の方に振り向いてきた。
「あっ、岩波君じゃない」
「はい」
徹二は死にそうな顔でその先生、井上里奈に応えた。国語の先生である。
「あの、お話がありまして」
「お話って?」
「ちょっといいですか?」
その死にそうな顔でさらに言った。
「今から」
「ええ」
里奈は微笑んで徹二に答えた。
「それじゃあ」
「はい」
徹二は里奈の言葉に頷いてだった、そのうえで。
二人で第一校舎の裏に来た、そこには幸い誰もいなかった。そこで里奈と向かい合ったうえで。
ここまできたらとさらに覚悟を決めてだ、徹二は里奈に言った。彼女をじっと死にそうな顔で見つめながら。
「好きです」
「先生を」
「はい、女の人として」
このことを遂に言った。
「そして」
「ええ」
「付き合って欲しいです」
このことも言った。
「お願いします」
「君の気持ち、受け取ったわ」
里奈は徹二に答えた、確かな顔で。
「けれどね」
「けれど?」
「先生実は結婚するの」
里奈は徹二の目をじっと見てこのことを告げた。
「だからね」
「それじゃあ」
「そう、お仕事も辞めて」
そしてというのだ。
「その人の実家の北海道に行くの」
「北海道ですか」
「そこに行ってね」
そしてというのだ。
「お仕事をするから」
「そのお仕事なんですか?」
「牧場よ、大きな」
里奈は嫁ぐ先の仕事のことも話した。
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