第二章
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「嫌な世の中になった」
「煙草止めても死なないでしょ、いえ」
「むしろ、だな」
「長生き出来るわよ」
身体にとって百害あって一利なしのそれをというのだ。
「よかったじゃない」
「俺も健康的に生きろ、か」
「そうよ、スポーツもはじめたら?」
「スポーツか」
「ジムにでも通ってね」
その憮然としつつ煙草を吸う夫に述べた、一七〇の自分より一五センチは高い夫のその身体を見ながらだ。
「そうしたら?」
「健康的に生きろ、か」
「しかもビールは禁止になってないでしょ」
もう一つの生きがいであるそれはというのだ。
「だったらいいじゃない」
「ビールは、か」
「そうよ、だったらいいじゃない」
「ドイツでビールを禁止にしたらな」
それこそとだ、アントンは言った。
「我が国はどうなるんだ」
「成り立たないかも知れないわね」
「朝から飲んでるんだぞ」
アントンもそうだがフレデリカもそうだ、そして多くのドイツ国民もだ。
「ドイツ人はビールで生きているんだ」
「飲みものはね」
「そのビールがないなんて論外だ」
それこそというのだ。
「肥満も痛風も関係あるか」
「そうよね」
「これは絶対だ」
「私もビールについてはそう思うわ」
夫と同感だというのだ。
「本当にね」
「全くだ、しかしな」
「それでもっていうのね」
「煙草が遂になくなるか」
一本吸い終わったのでもう一本出しつつ述べた。
「残念だな」
「諦めきれないのね」
「当たり前だ、少数の意見は多数派に否定されるか」
「とはいっても法律や人権を無視した暴論でもないでしょ」
ネットで時折見られるそれでは、というのだ。
「健康の問題からでね」
「ああ、国民の健康を守る為にな」
「そのうえでのことだから」
それでというのだ。
「宗教的な理由も言われてるし」
「健康か」
「第一はね」
「国民の健康が第一か」
「そういうことよ」
「そこまでしなくてもいいと思うんだがな」
浮かない表情はそのままだった。
「本当にな」
「そう言わないでよ」
「煙草は止めてか」
「そんなに吸いたいなら他の国に行って吸ったら?」
これが妻の提案だった。
「確かに禁煙は世界的な流れだけれどね」
「それでもっていうんだな」
「まだ周りの国は禁煙になっていないし」
「ここからだとな」
アントンはここで自分達が今住んでいる場所のことを思った、結婚してから仕事の関係でベルリンの東のエベルスバルデにいるのだ。
「ポーランドか」
「あそこに行ってね」
「車だとすぐだしな」
「吸ってきたら?」
その法案が発効したその時はというのだ。
「そうしたら?」
「真剣にな」
アントンはフレデリカに真顔で答えた。
「考え
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