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貴族も大変
第九章

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「信仰と学問に」
「神にお仕えしていてですね」
「何もありません」
 その信仰の日々にというのだ。
「これ以上はないまでに充実しています」
「そうですか、ではこれからの貴方はです」
 院長はペーターの淀みのない返事に笑顔で頷いてそのうえで言った。
「大学まで神学を学んで頂き」
「そしてですね」
「修道院に残られるにしろ外に出られるにしろ」
 修道院の外にというのだ。
「神にお仕えして生きられます」
「そうして結婚もですね」
「そちらはです」
 この宗派は聖職者の婚姻も可能だ、この時代ではカトリックにしてもそれが一応認められている。
「神のお導きにより」
「巡り会えますね」
「何でしたら私共でお見合いの用意も」
「そのことについては」
 結婚についてはだ、彼はこう院長に答えた。
「私の方でその時になれば」
「決められますか」
「大学を出てからのことも」
 そこからの人生もというのだ。
「おそらくです」
「ご自身で、ですか」
「暫く考えさせて下さい」
「わかりました」
 院長はペーターのその言葉に頷いて答えた。
「それではその様に」
「はい、神のお導きのままに」
「そうされて下さい」
「それでこうも思うのですが」
 ペーターは振り返る顔になり院長にあらためて話した。
「若し伯爵家の養子になる道を選んでいれば」
「その時はですか」
「また違う人生だったのかもとです」
「そうでしょうね、それは」
「そうも思います、しかし私は決めました」
 確かにというのだ。
「神に仕えることを」
「高貴なる立場ではなく」
「この道を選びました、確かに質素ではありますが」
 そして厳格な暮らしであるがというのだ。
「これ以上はなく充実していますので」
「満足ですね」
「充足感を感じています」
「では」
「はい、これからも」
 神に仕えて生きるとだ、ペーターは貴族の養子になった場合はどうだったかとふと思い名がらもこの道で生きるのだった。充実を感じている日々の中で。


貴族も大変   完


                  2017・4・21
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