第二章
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「東京の方と一緒で」
「上野動物園の象さん達と同じね」
「あそこでそうなった動物って象さん意外もだったけれど」
「ここもね」
「そうしたことがあったのよね」
「そうなのよ、本当にね」
美沙子はいつも明るい彼女にしては珍しく悲しい顔になって話していた。いつもここに来るとこうなってしまうのだ。
「戦争の時はね」
「食べるものもなくなって」
「どうしてもそうなるわよね」
「人間も食べられなくなるし」
「動物は余計にね」
「そうなるわね」
「だからね」
それでとだ、美沙子はまた皆に話した。
「皆死んで」
「そしてね」
「今はここに皆いるのよね」
「慰霊碑が建てられて」
「そうしてね」
「そう、皆いるのよ」
あの戦争で犠牲になった動物園の動物達がというのだ。
「そして寝ているのよね」
「死にたくなかったでしょうね」
「やっぱりね」
「動物園の人達もそうしたくなかったし」
「そうするって決めた人達も」
「誰もね」
「そうよね、それでもそうするしかなかったから」
あの時、戦争の時はというのだ。
「仕方なかったのよね」
「仕方ないで死んだ命は戻らないけれど」
「それでもね」
「今はこうしてね」
「ここで皆いるのね」
「せめてね」
美沙子は悲しい顔のままこうも言った。
「今はね」
「ここでね」
「ずっと穏やかでいて欲しいわね」
「そうして動物園にいて欲しいわね」
「これからも」
「そう思うわ。私ここに来たらいつも思うの」
大好きな動物園の中でというのだ。
「この動物園がずっとあってね」
「ここに眠っている動物の皆も」
「今はね」
「ずっとここで眠っていて欲しい」
「安らかに」
「そう思ってるわ、もう二度とそうしたことは起こって欲しくないし」
動物園の動物達、戦争とは直接関係がない彼等まで犠牲になってしまうことはというのだ。
「そしてね」
「ずっとね」
「ここで眠っていて欲しい」
「そう思うのね」
「本当にね」
こう友人達に言ってだ、美沙子は慰霊碑に瞑目した。友人達もその美沙子に続き。
動物園の他の場所に向かった、慰霊碑で眠っている動物達は彼女達に何も言わない。しかしそこに確かにいた。そのうえで美沙子達を穏やかな顔で見送っていた。
動物園の過去 完
2017・8・25
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